どんだけ
跡リョ♀

家に帰ってから夜、カルピンとともに入浴したあと、携帯を視界の端に入れるとランプがせわしくひかっていた。新着メール一件、と記載されたそこには知らないメールアドレスからのもので、リョーマはだれだろう、と首をかしげて開いた。そこには跡部からアドレスとともに番号が記載しており、本当に送ってきたのかと半ば信じられないおもいでリョーマはその数字を見つめていた。

「…………………………………」

ほあら、とカルピンの鳴き声を背にしながら、リョーマはベッドに横になって携帯の画面を見つめた。意外にも、律義な人だ。あんな冗談半分で言った言葉に、本当に返してきてくれるなんて。

かちかちとメールの文面を作成しながら、やっぱりやめようとしてメールを破棄する。もともと言葉選びが苦手なのだから、メールなんて方法はやめよう。
そうおもってメールに記載されている番号を呼び出すと、コール音は数回でやんだ。はい、と跡部の声が耳に届く。

「跡部さん。俺だけど」
電話の相手はリョーマの呑気そうな様子に、ちいさな溜息をついた。電話越しにもわかるその様子にリョーマは眉をひそめた。

「俺様を待てせてんじゃねーよ。あーん?」
「あー………。部屋にケータイ置きっぱなしだったから……」
もごもごとなにか言い訳のように言葉を重ねるリョーマは、はっきりしない口調で跡部にたいして返したあと、思い出したように言った。

「でも、あんたが本当に連絡くれるなんて思ってもなかった」
正直な言葉に、跡部は機嫌を悪くしたような様子を垣間見せながらも、リョーマの言葉に声を荒げることもなかった。
「約束だったからな」
「……約束、ねえ」
つんつんとねこじゃらしでカルピンの気を引きながら言葉を返すとともに、どさっとカルピンが膝の上にのってくる。ふわふわとしたふさふさの毛並みが太ももをくすぐる。
ちょっと、カルピン!と上に乗り上げてこようとしたカルピンをとめようとして声をあげたリョーマは、携帯を落としてほあら!ととびかかってきたカルピンにのしかかられる。
「越前?」と電話口から不審そうな跡部の声が聞こえてリョーマは慌てて携帯を耳元にあてた。

「あー。すんません。飼い猫がとびかかってきて……」
さすがにリョーマも電話口で失礼だったかなと思ったのか謝る様子に、跡部はべつに、と短く告げて気にするな、と言う。
「それより、ちゃんと俺様のナンバー登録しておけよ」
「そんなこと言われなくたってするよ」
むっとしながら言うリョーマは自分がものぐさなのは十分に自覚があったからこそ、口調は素っ気ないものになった。的を射ている跡部の言葉を認めたくはなかったのだ。
そんなリョーマを前に年齢差ゆえの余裕か、それとも人間性の違いか意外にも跡部は気にする様子もなく、昼間の争いが嘘のように口調は普通だった。電話越しという状況がそういうのをつくりだしているのかもしれない。

「ねえ、試合のはなしって、本当のことだって受け取っていいんだよね」
再度確認するように問うリョーマに跡部は当然だろう、と言った。
「まあ、大会中は無理なはなしだけどな」
笑いを含んだ跡部の声色にリョーマはええ!と大きな声で残念そうに言った。今日はテニスの試合の相手になってやるなどと言った跡部だが、実際問題それは難しいことに違いない。跡部はただでさえ氷帝の部長、跡部自身がリョーマとの野試合を望んでいたとしても、立場が許すはずがなかった。
ましてやいまは関東大会の真っ最中――――全国がはじまるまでに公式試合ならば組めるだろうが、お互い学校の練習が厳しい身……おそらくは大会が終わる九月までは無理なはなしだった。
それは話をもちかけたリョーマもわかってないことはなかったのか、そうだよね……といささか気落ちしたように電話越しで溜息をついていた。

「大会が終わってからあんたとなんて……遠いなあ。なんとかなんないの?」
リョーマは跡部にいまは並々ならぬ関心を抱いていた。不完全な腕を抱えながら戦ったとはいえ、相手はあの手塚を倒した男。直接相手を願うのは、テニスプレーヤーとして当たり前だった。
手塚の相手をしたことがあるリョーマならば、なおさら。

「無理言うんじゃねーよ。お前だって俺と野試合してることが見つかったら体裁がわりぃだろ。違うか?」
「認めたくないけど、正解だね」

ちえ、と小さく毒づいたリョーマに、跡部は「ほかに方法がないことはないけどな」と勝ち誇ったように言った。
「嘘」リョーマの全く信じ切っていない声に跡部は苦笑した。

「本当だぜ。俺様の私有のコートを使えばなんにも問題ねーよ」
「…………でも外だったら見つかるでしょ。誰かに」
「室内だからな。覗いたって見えやしねーよ。プライベート用だしな」
「………………プライベート、」
「場所は青学からすこし遠いが、無理な距離じゃねーよ」
「………………………?」
「俺様の家だ」
段々と口数の減るリョーマにかまわずいった跡部に、リョーマは顔をしかめていた。
「いや。あんたの家知らないし。どうやっていくんだよ」
つーかプライベートってなにそれ。口に出しかけた言葉を押し戻したリョーマは混乱している頭で考えた。
もしかしてこの人って超がつくほどの金持ち?
そう思うとリョーマは跡部のそのプライベート用コートもとい跡部の家に行くということが避けたいものに思えてきた。いくらなんでも住む世界が違いすぎ!

「知らねーなら迎えに行ってやるよ」
当然だとでもいうように口に出した跡部にとって、車をひとつだして人を迎えにいくことなどはたいしたことではなかった。試合の日はねぼすけなジローを迎えにいくこともあるし、ジローに巻き込まれて電車を逃して帰れなくなったといって困っていた忍足たちを家に届けたこともある。
そう、跡部にとっては普通のことだったのだ。

「えっ。迎え?」
若干引き気味の様子に跡部は気付かない。
「それならお前の手間もねーし、俺の家にいるともわからねーだろ。まあ関東が終わってお互いに時間が出来たらな。気が向いたら、お前から連絡してこいよ」
「え。………あー。うーん。そうっすね…」

じゃあ、言った跡部にリョーマはごにょごにょとはっきりしない口調で別れを告げて電話を切った。
足元では、カルピンがごろごろと毛づくろいをしている。

「………………迎え、やだな」
ぽつりとつぶやいた言葉は跡部に届くはずもなかった。
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続き書きたいな〜とかおもってるけどほかに優先すべき小説がありますね。

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