聖者の呪い:005
なんちゃって魔法系ファンタジーパラレル
最終的には赤黒にするのですが、ほかの黒子受カプが混ざりこみます。

今回は序盤にすこし赤司出しておきました。
一応赤黒なのでね!(強調)

歓声が会場に響き渡る。魔術で綺麗に装飾された会場は、決闘場というよりも華やかな社交パーティでも行われそうなほど煌びやかだ。
その煌びやかさに負けないほどの鮮やかな魔術を繰り出す少年に、まわりは歓声をあげているのだ。円を描くように囲む群衆の中心には、赤髪の少年が、自分よりも年を重ねた熟練の魔術師相手に余裕の表情を見せていた。

「さあ、はやく降参してください。僕としても、あなたをそう傷付けたくはない」
赤髪の少年、赤司はにこやかに笑って相手の魔術師にそう言った。
魔術師はくっと息を吐いて忌々しそうに赤司を見下ろした。小生意気で飛び切り優秀な若い魔術師―――教師からの評判も良く、人望も厚い。とことんむかつくやろうだ、と魔術師は心の中で口汚く罵っていた。

「クッソォ……!」
魔術師は咄嗟に赤司の攻撃魔法を避けきれず、ダイレクトにその身に受けた。
吹き飛ばされ、壁に叩きつけられる。本当に容赦がない。

カツン、と靴の音を響かせて赤司が止めに杖を大きく振りかざそうとしたところで、耳をつんざくような金属音が鳴り響いた。
あまりの不快さに、会場の群集は顔をしかめ耳を塞ぎ叫んでいる。

「…………真太郎」
薄暗い声で、赤司はぽつりと呟いた。

それと同時に、緑髪の長身の美丈夫――まだ少年だが――緑間が決闘場に降り立った。目を怒らせ、赤司を睨みながらずんずんと足を踏み鳴らすように近づく。

「決闘は合法であるし、先生方も認めてはいる。――だが、ここまでの扱いは相応しくないとお前も重々承知しているはずじゃないのか。赤司」
緑間は己の従えさせている使い魔を放った。
黒いそれは赤司の身にまとわりつき、しつこく絡みつく。

「……こんなもの、いざとなれば八つ裂きにでも出来るけれど。いいのかな?」
冷たい瞳をした赤司がちらりと緑間と、その黒く身にまとわりつくものを睨んだ。
「高尾……だったかな。真太郎の新しい使い魔君………」
凍てつくような声だった。
その声に、赤司の身にまとわりつくように絡んでいていた物体が震える。そう、震えた。
しゅるしゅると布をこするような音を立てながら、その黒い物体は人の形になってあらわした。
まだ年若い、少年だ。

少年は恐ろしいものを見るように赤司をじっと見て、それから緑間を仰ぎ見た。
「真ちゃん、さすがの俺も赤司はちょっと無理だわ。コイツほんっと怖すぎ」
指を指して言いたい放題に言ってしまう高尾をよそに、倒れてあとすこし赤司に完璧に再起不能にさせられそうになっていた魔術師は脱兎のごとく逃げ出した。
それを興味なさげに一瞥して、赤司は群衆に向きなおった。

「お見苦しいところを見せてしまい、申し訳ない。楽しんでいただけたかな?」

にっこりと美少年が笑みを浮かべれば、それだけで群衆は湧きあがった。その上に、圧倒的な魔力。そして、類まれなるセンスと技術。
赤司を今日はじめて目にしたばかりの人も、すっかり彼の虜になっていた。

黄色い歓声に包まれながら、終始笑みを絶やさずにいる赤司を前に、緑間は大きく溜息をついた。

「まるで俺たちが場違いのようなことに……」
「まあ、事実だろ。この群衆にとっちゃあ、一介の魔術師が死のうが生きようが関係ないんだからさ。決闘なんて、貴族サマのエンターテイメントなんだから」
肩を竦めておどけたように高尾は言ったが、その顔はちっとも笑っていない。

「赤司は営業をやってるのさ――――なんの意味があるかしんねーけど。こんなやつらに媚び売る必要のあるほどの身分じゃないくせに……」



「そう怒るな。眉間の皺が取れなくなるぞ」
パラ、と本のページをめくる音がする。

あの決闘場を後にし、緑間と赤司は学園の寮内にある談話室でくつろいでいた。普通ならばこの談話室にも多くの生徒の姿が見受けられるのだが、この赤司がいるせいでほとんどの生徒が退散してしまっている。
そのことに気付いているのかいないのか、赤司はきっと気付いているに違いない。涼しい顔で分厚い難しそうな本を読み、怒り顔の緑間をからかうように目線をやっている。

「誰のせいだと思っているんだ」

つんけんした口調を隠さずに、緑間は言いながら、赤司を睨みつけた。
頬杖をついて、切れ長の瞳をちらっと向けて、意味ありげに微笑む。

「僕かな」
「そうなのだよ!自覚があるならもっと意識しろ」
「意識ね…難しいことを言うものだ。僕は自然体でいるつもりだからね」
緑間が悪戦苦闘している魔術をさらりとやってのけて、赤司は微笑んだ。

「随分と難しいことをしているな。高等部にあがってからのだろう」
「お前が言うな!」

赤司のこの行動に緑間は一層怒った。
今更赤司と無駄に張り合うなどはしたくもないが、こうして難しい難しいと自分が手こずっていることを横でさらりとされてしまうのはまったくもって面白いことではない。

「だいたい、何なのだよ! 最近のお前はおかしいのだよ。決闘ばかり、いくつしているんだ?」
「………数えていないな」
はあ、と緑間は溜息をついた。

「…お前が何の用途に使おうとしているかは知らないが、決闘場でのパフォーマンスの代金……あんな大金を稼いでなんの意味がある」
じっと探ろうとするかのように見つめる緑間に、赤司は見つめ返す。
探るような鋭いその視線にも、赤司は動じずに、まるで何にもないかのように表情筋をぴくりとも動かさない。

「……あえていうなら、土地でも買おうかと思ってね」
「土地?」
あまりに突拍子もない赤司の言葉に、緑間は目を丸くした。
「そう。土地だよ…」
もう一度本のほうに目を落として、ぱらぱらと読みだした。
緑間はぽかんと口を間抜けな面をしながらあけたあと、唸るように待て、と言った。

「意味がわからない」
「土地、といえば土地しかないだろう。空き地をひとつ買おうかな、と思ってね」
名案だろうとでも言いたげに微笑んで小首を傾げてくる赤司に、緑間はいよいよ訳が分からなくなった。

「と、土地とはどこだ? まさか…お前この学園を買うつもりじゃ……」
真っ青になって緑間がそう言えば、赤司はくつくつと笑い声をこぼした。
「そこまで貪欲じゃあない。それに、この学園は僕にとってはそこまで重要でもない……」
赤司は立ち上がった。
寮の談話室の窓から見える美しい風景を眺めて、ゆっくりと目を細めた。

「北の大地さ――――開拓不能の、永久凍土に埋もれた」

***

火神が誠凛国に入国し、黒子と一緒に相田の家に居候になってからひと月が過ぎた。
はじめは顔もわからない仮面をつけた――というか顔のない少年・黒子を不審におもった火神だが、日常を過ごすうちに、それ以外はこの黒子は普通の人で良識を持った人間なのだとわかった。
神獣(黒子曰く、「2号」)を従えているのも大概謎ではあるが、本当に本当にそれ以外はただの少年でただの魔術師なのである。

「さあ、傷口を見せて下さいね…いえ、怖がらないで。大丈夫です……痛くないですよ」
優しい声で子供にそう声をかけて、黒子は立派な装飾の杖を一振りした。
転んで痛みで泣いていた子供の脚の傷がみるみる塞がっていき、子供はぱったりと泣き止んだ。黒子に笑顔でお礼を言って、また道を駆け抜ける。

火神はそんな黒子のようすをぼけっと眺めながら、不思議そうに問いかけた。

「一か月もいる俺が聞くのも何だけどさ……なんでお前ここにそんな長くいるんだ?」
火神の疑問はもっともである。

火神がこの国に来た目的は、行ったことのない未知の国に行くという目的もあるのだが、剣術修行の一環でもあった。
しかし、魔術師でとくにここで学んでいるようすもない黒子がここに長居しているのは随分と不思議なものである。

「……元々とくに長くいるつもりはなかったのですが、なかなか居心地が良いもので。それに、2号も離れたくないといっていたので」
そう言いながら、2号の背中を撫でる。
嬉しそうな声に、火神は肩を竦めた。

「でもお前、その呪い解くために旅をしてんだろ? いいのかよ」
「…呪い……そうですねえ…………。解けませんね……」
他人ごとのようにそうつぶやいた黒子に、火神は呆れた。

「いや、お前も不便だろ。その状態」
「まあ確かに不便ですけど…。こうもなかなか解決方法が見つからないと……寄り道もしちゃうものですよ」
苦笑したように言う黒子に、火神が困ったようにうろたえた。
不便といってしまったのが、急に無神経だったように感じてしまったのだ。この状態になって困っているのは黒子自身だというのに。

その火神が気にしたようすを察したのか、黒子が首を横に振った。
「いえ。ボクも……長く居すぎたのかもしれません。なにせ、ここはみなさん良い人ばかりで、居心地が良すぎるものですから」
柔らかな口調で満足そうに黒子がそう言うものだから、思わず火神も頷いた。
そう、確かにこの誠凛国は居心地が良い。長である相田リコの人柄と、その補佐をしている人たちのおかげかもしれない。

ワン、と2号がひときわ大きく吠えた。
黒子が優しい声で撫でてやると、くぅんと甘えたような声を出す。

「火神くーん! 黒子くーん! ちょっと来てほしいんだけど!」
やや遠方から相田の呼び声がして、ふたりは立ち上がった。
今日は誠凛国の南方に位置する広大な地で作物を育てるという魔術の国にしては古風なことをしていた。相田たち曰く、「魔術に頼ってばかりではいけない」らしい。
魔術に頼ってしまえばすぐに終えてしまうこの農作業も、相田たちにとっては魔術師である以前に人であるということを忘れないためのものらしい。
まったく、魔術師とは時々わけのわからないことを考えるものだ、と火神は思う。

黒子もその件については理解できるところがあるらしく、黙々とその作業を手伝っている。とはいっても体力などに長けていないものが多い魔術師のなかでもかなり体力がないほうである黒子では、その手伝いとやらも雀の涙であるのだが。

火神と黒子が相田のいるところに着くと、相田がやけに機嫌良さそうに立っていた。
その少し後ろには、普段は誠凛国の警備統括をしている特殊な瞳を持つ伊月も控えていた。何やら長々とした文章が続く書類を睨むようにして見つめている。

「何スか?」
不思議そうに火神がそう問えば、相田がにっこりと笑って、伊月が持っていた書類を取ると突きつけた。

「あなたたち二人に、お願いがあるの」

黒子もお願いとやらの不穏な言葉に、その紙に興味を持ちだした。下から覗き込むように顔を近づけている。

「これは帝光から来た文書よ。誠凛国の国境付近の状態をどうにかしろっていうね」
ぴらぴらとそれをもてあそんで、相田はふう、と溜息をついた。

「まったく偉そうな国よねえ…あれはこっちが昔から施している魔術結界の一部だっていうのに。こっちにはこっちの都合があるのに」
困ったように眉根を下げて、ちらりと火神と黒子を見た。
「ということで、この文書の返答を使者として伝えに行ってほしいのよ」
「ええっ?! 俺と黒子がっすか?」
「……………………」

驚いた反応を見せる火神とは対照に、黒子は無言でその文書と相田を交互に見つめた。
やや悩むかのようなようすを見せながら、それでも頷いた。
「大丈夫です。かまいませんよ」

断ることをしなかった黒子に、火神が焦ったように言葉を連ねた。
「待てよ。俺とお前がって……この国の人間じゃあないのに?」
「……別に返礼の使者に国の出身でなければならないという義務もありませんよ」
「それに俺、誠凛国の使者なのにぱっと見が剣士だぜ?! それはどうなんだよ?」
「ああ。それなら心配いりませんよ。一時的になら、君に魔力を与えることが出来ますから。もし帝光がボクたちを怪しんでなにか調べようとしても、魔力さえあればきっと何も疑われることはありませんよ」
「ああ、そうか――――ってハァ?」
さらりと紡がれた言葉に、火神が目を剥いてみれば、黒子は平然としたようすで火神を見ていた。
相田が横で「あら、黒子君、言ってなかったの?」と不思議そうに首を傾げている。

「言ってませんでしたっけ。…すっかり言ったつもりでいました」
「魔力をうつす? 人に? そんなこと…できるのか?」
聞いたこともない能力に、火神はただ驚くばかりだった。そのせいか、わずかに陰ったようすを見せる黒子に気付かずにいた。

「出来ます……ボクの魔術師としての最大の特長は…そこですから」
右腕をあげて、黒子は指先で火神の心臓あたりに触れた。
そのとき、妙に鼓動がはやまった。まるで心臓が黒子の指に触れられるのを待っているかのようだった。期待に満ちていた。
ぶつぶつと黒子がなにやら唱えて、眩い真っ赤な光があたりを照らす。目もくらむような鮮やかさに、火神は目を瞑りかけた。

「軽くですけど……いまの君は魔力を持っています。保有しているだけでは、使えるわけではありませんが………さっきとなにか違うように感じませんか?」
首を傾げて聞いてきた黒子に、火神は頷いた。

「なんつーか……身体がみなぎってくる感じだな」
「…みなぎってくるかは置いといて、魔力は魔術師にとっては生命線ですから。魔力が極端に減ってしまえば、魔術師の身体に影響を及ぼす…」
そう言いながら、黒子はふう、と長い溜息をついた。
かすかに疲れたようすを見せている。

「……ボクは元々魔力量が多くはありません。そう長くは持ちませんが、多少の目くらましなら出来るので心配いらないと思いますよ」

弱弱しい声でそう言う黒子に、火神は不安になった。いや、むしろ自分がこの少年を守らなければならないのでは?と思ったのだ。

「じゃあ引き受けてくれるかしら、火神君も」
相田の言葉に、火神は頷いた。
むしろ、黒子のことが放っておけないと思ったのだ。
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PIXIVより再録。

次回からはなしが動くかな?
青峰さんもそろそろまた出るかなーという感じですね。


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