聖者の呪い:005
なんちゃって魔法系ファンタジーパラレル
最終的には赤黒にするのですが、ほかの黒子受カプが混ざりこみます。

今回からは火黒が強くなる予定でございます。

青年は途方に暮れていた。
青年―――火神大我はいまいる国、誠凛国には入国したばかりだった。旅慣れている火神にとって、はじめてきた場所だからといってすぐに道に迷ったり、途方に暮れてしまうわけではない。
なぜ火神がいま途方に暮れているかというと、誠凛国に帝光国から入国したものの、帝光国から出るときに通った出国審査所と誠凛の入国審査所があまりにも違ったためである。誠凛国の大地は近年見つけられたばかりで、国というものの、それも帝光の学者が見つけそう“国”であると勝手にそう呼んだからである。
だから火神はこの国が国とは思わなかった。火神がいままで旅してきたところもなかなか発展の乏しいところは見てきたが、こんなにも獣道が国境沿いに残っているところは初めて見た。帝光が見つけたといっても、この大地にもともと住みついていた人間はいたから帝光の領土にはならなかったが――――そのようにならなかったのも、科学の国・帝光にとっては、この自然はとうてい魅力的に映らなかったからかもしれない。

さて、ここまで火神はこの誠凛国にたいし、文句に近いことばかり心の内で思ってきたが、実際はそうでもない。火神はたしかにこの整備されていない獣道を煩わしいとは思うが、そこまでいやでもなかった。
帝光の、すべての過去の遺物を捨て去っていくような構えのほうが、よっぽど苦手である。

「う―ん。しかしなあ……こっからわりとすぐに村あるはずなんだけどな…」
火神はぽりぽりと頭をかいて、兄貴分の男から渡されていた古びた地図を見た。多少古いが、地形はこの調子だとそう変わってもいないだろうからおそらく正しい。
そう、帝光国から入国したらすぐに村が見つかるはずなのだ。

「道、間違えるほど進んでねえしな……」
ぽつりと感慨深く火神は呟いたところで、大きな遠吠えのような獣の鳴き声と共に爆風が起きた。小柄な人物ならよろめいたところでは済まなかっただろうが、火神は剣を抜いて地に突き刺すことで事なきを得た。

「なっ、なんだあ!?!」
驚いた顔で火神が顔を上げると、上空には大きな白い毛並みの獣がいた。そして、その上にしれっとした顔でまたがっているのは、またその風体の似合わない、線の細そうな少年であった。ただその風体は変わっていて、顔に面のようなものをつけている。

「あれ…? 盗賊じゃない?」
驚いたような声でそう言われ、火神は思わずぷちっと頭にきて怒鳴った。

「人をこんな目にあわしての第一声がそれかよ!! てめーふざっけんなよ! 普通のやつだったら吹き飛ばされてどっかに激突してるぞ!」
火神は剣幕なようすで怒鳴れば、少年は困ったように申し訳なさそうになった。

「すみません。誠凛国を訪れる普通の方がボク以外にいるとは思わなくて…。ここは治安が悪いものですから」

少年はその嵐のような登場をしたわりにはおとなしい丁寧な口調でしゃべる。
柔らかそうな物腰が、その口調に妙にあっている。

「申し訳ありません。旅人さん。不快な思いをさせてしまい……。ただ、妙な力を感じたものですから、飛んできてしまったのです」
少年はふわっとした足取りでその大きな獣から降りてきた。
身体を覆うような服装をしているため、やたらと暑そうである。

「初めまして、ボクは黒子テツヤといいます。あなたのお名前をうかがってもよろしいですか?」
目の前にいると、その少年がやはり小柄な方だと再認識した。小さい上に身体の線も細いものだから、大柄で肉体的にがっちりとした体つきである火神のそばにいると余計に小さく見える。

「ああ。俺は火神大我だ。帝光国の人間じゃねーけど、帝光国から来た」
「珍しい方ですね。どこか遠い国の生まれですか?」
「海を隔てて何マイルかな……故郷は随分前に出てきたから、よく覚えてねえ」
火神が気まずげにそう言えば、黒子は首を傾げて頷いた。

「長く旅を続けると忘れてしまうものです。たくさんのものを見ていくうちに、段々とどこかへ昔を置いていくんです……」
ふっとどこか自嘲気味にそう言って黒子の表情はわからない。けれど火神には、きっととうてい少年のするような表情ではない大人のような顔をしていることが容易に浮かんだ。。
まろい頬のラインが急にすっとした鋭利な刃物のような横顔に思えて、火神はぱちくりと瞬きをした。

「さて、君は誠凛国に入ってからすぐの村を探しているんですよね?」
ぱっと火神を仰ぎ見て、黒子は聞いた。
火神が頷くと、黒子はじっと腰にさしている剣を見ながら首を傾げる。

「えーっと…火神君は剣士の方ですか?」
「いや、別に。まあ旅してたら自分の身を守るにはこれ振り回すのが一番って気付いたっていうか……」
不思議そうに火神が返せば、黒子はしばらく唸ったあと、もしかして、と言いった。

「火神君、君の故郷やまわりの方々に魔術を使う方はいますか?」
「いるっちゃいるけど……あんまり主流じゃねーな。帝光国までとはいかねーけど、魔術とかいうよくわかんねーもんより、科学による文明発展とやらを目指してきたところだったらしいからな」
「なるほど。それでですか」
黒子がそう言いながらきらきらとした装飾の施されている杖を一振りすると、パン、と破裂するような音がして、視界が変わった。
さっきまで鬱蒼としていた森がどこか遠くへと引っ込んでしまい、代わりに出来上がったのは小道だ。整備されていて、人がよくとおっているのがうかがえる。

「誠凛国は古くから人が住んでおり、帝光とは違う歴史を歩んできました。ここで主流なのは、科学ではなく魔術です。魔術で施された結界に、物理攻撃は効果なしといっても良いですから……」
ぽかんと口を上げて火神は、その小道と黒子を交互に見た。

「えっ! お前、魔術師なのか?」
「はい。これでも……。まあボクは攻撃魔法は苦手なほうなので、自慢できるものではありませんが……このような補助魔法は得意ですよ」
すいっと杖を振り上げると、その軌道にならうように小道がさらに開けた。

「その道を進めば、目的の村へと着きますよ」
「おお…ありがとな」
ぱっと黒子の方を振り向いて火神が笑うと、黒子は面喰ったように言葉を失い、足取りを止めた。
わけがわからなくて火神が首を傾げるが、黒子はそのまま考え込むように俯いた。
「おい、どうかしたのかよ」と火神が心配になって声をかける前に、黒子が顔を上げた。

「いえ。なんでもありません。村にはボクも滞在中ですので、案内しますよ。火神君」

わずかなためらいを振り切るように黒子は火神に先だって先導した。迷いなく進む足取りに、火神の脳裏に先程のうろたえたような黒子が浮かんだ。

***

村の入り口まで行くと、また黒子が杖を一振りした。すると、大きな門があらわれ、火神はその突然さにびっくりし目を剥いた。

「ビックリするでしょう。誠凛は行き遅れの国だと揶揄する人は多いですが、この国に施されている古来からの魔術は魔術師として非常に興味深いものですよ」
ぎい、とその黒子の手で開けるには随分重たそうな門を開けて、黒子は火神を仰ぎ見る。

「この村に新しく来た人はボク以来君が一人目ですから……村長に挨拶しにいきましょうか」
「……やっぱり古いのな、やること」
「そう言うものではありませんよ。古式ゆかしきと言うのが正しいかと」
「やっぱ古いんじゃねーか」
「…………そろそろ着きますから少し黙ってください。失礼ですよ」
冷たい声の黒子に、火神は背筋を凍らせた。

「村長は若い娘さんですが、侮らない方が良いですよ。この村で誰よりも強いのはきっと彼女ですから」
「だーれが強いのかしら? 黒子君」
若い女の声がした。声が少し高めで、少女のようにも感じる。だがその語気から感じる強気なようすは少女を女に感じさせる。
その声にあからさまに黒子は硬直し、震えた。

「いえ、ボクは相田さんがお強い方だと言っただけで……。褒めてますよ」
しれっとした顔で、そう言いながら黒子は後ろを振り向いた。
火神もそれにならって振り向くと、そこには小柄な女がいた。髪は短く、女というよりも見た目は少女らしい。ぱっちりとした瞳が童顔に見せているのか、その髪型もそれを助長させているのか。

「ていうか黒子君の隣りにいる人は誰? 随分おっきいわねえ…鉄平くらいあるんじゃない? 君、いま無職?」
「ハァ?!」
「火神君落ち着いて。相田さん、この方は旅人さんです。ちょうど帝光から来たばかりみたいで、道に迷っているのをボクが見つけて連れてきたところです」
火神と相田の間に入り、黒子は丁寧な口調でそう説明した。
すると、相田はああ、と頷いてからもう一度火神を見た。

「そう。……魔術師では、ないみたいね………」
不思議そうにそう言いながら、相田は火神をじろりと見回した。ちょうど瞳がその剣に止まり、瞳がきらきらと輝いた。

「あなた剣士なの?!」
興奮したようすでたずねてくる相田に、火神は押され気味になりながら頷いた。
「そうだけど……別に珍しいもんでもねーだろ」
「珍しいわ! 私はこの村から出たことないもの……。初めて見た…剣士って本当にいるのね!」
興味深そうに火神が腰にさしている剣を手に取り、眺めながらうんうんと相田は頷いた。
火神はその勢いに圧倒されながら、こそこそと黒子の耳元でささやきながら聞いた。

「なあ、剣士って別に珍しくねーよな?」
ぼそぼそとしゃべる声を聞きながら、黒子はいえ、と首を横に振った。
「ここでは珍しいですよ。さっき言った通り、誠凛は魔術の国ですから。……それにここは、科学の国を見てきたばかりだと見劣りするかもしれませんが、村全体に張り巡らされた強固な魔術結界がこの村を守っています。ここで生まれた人は、滅多なことがない限り、村から出ることはないんです。だからこんなに相田さんは興奮しているんですよ」
「そうよ。黒子君の言う通り! …まあ、私もちょっと落ち着きなくて恥ずかしいわ。ごめんなさいね、火神君」
手に取っていた剣をそっと火神に返し、相田は笑った。

「いや、いいけど別に…」
たいして気にしてもないようすで火神が言うと、安心したように相田は胸をなでおろした。

「そういえば自己紹介がまだだったわね。私は相田リコ。この村の長をやってるわ」
「村の長……。俺は、火神大我だ。一応、剣士をやってる」
「この村に滞在するなら、私の家に来なさい。ここは外部からやってくる人も少ないし、宿も少ないの。黒子君もいることだし、君たち同じくらいの年ごろでしょう?」
ちらりと火神が黒子を見下ろした。
「こいつ結構ちっさいんじゃ……」
その言葉を聞いて、黒子が顔をしかめた。
「一応十五歳ですけど」
「?! お、同い年かよ…」
「見えなくてすみませんね」
ふう、と溜息をつく。

「ちっせーっていうのもあるけど……なんかお前、顔わかんねーし、よくわかんねーよ。なんでお面とかしてんだ?」
火神が黒子の顔につけている面を取ろうと手を伸ばし、相田が「あ」と止める暇もないまま火神がそのお面を取り去った。てっきり十五歳の少年らしい顔が出てくると思っていた火神は、そのお面を取り去ったあとになにもないのを見て、悲鳴を上げた。

「うっわ! な、な?! えっ?!」
お面を持ったまま、火神は相田と黒子を交互に見た。
黒子は大きく溜息をついて、相田は困ったように眉根を下げている。

「不躾ですよ、火神君。ボクみたいに顔の見えない人が他にもいたらどうするんですか」
「いねーよ! そんなやつ普通は!」
「とりあえず、返して下さい。ボクもないと落ち着かないので」
ひょいっと火神が持っていたお面を取って、黒子はすぐにつけた。
すると確かに落ち着いたらしく、ほっと息を吐いていた。

「ボクも最近慣れきっていましたから、油断してました。ビックリさせてしまい、すみません」
「誰でもビックリするけどよ……なんでお前そんななんだ?」
不思議そうに火神が問いかけると、黒子はしばらく押し黙った後、あっけらかんと言い放った。

「さあ。ボクにもわかりません」
「わからないって…自分のことなのに?」
さらに火神が疑問をぶつけると、黒子は頷いた。
「ボクが小さい頃住んでいた村で、魔女が村を壊滅させたことがあったんです。その少し前に、ボクがその魔女に襲われたことがあったんですが……なぜ魔女がボクを襲ったのか、まったくわからないんです」

黒子はそう火神に説明しながら、遠い記憶の底に眠っている故郷を思い出した。今となっては重ねられていく記憶のなかに埋もれてしまい、はっきりと鮮やかには思い出せないけれど、居心地は良かった気がする。
それに、優しい少年があの頃、自分のそばにいてくれた。冬の寒さのなかで照らしてくれるような、温かな……。
黒子はそこまで思い出して、はっと我に返った。どうしてだろう、ひどく感傷的な気持ちになってしまった。彼は、自分のせいで傷ついてしまったというのに。どうしてこんなにも彼のことを懐かしんで、会いたくなってしまうんだろう。

相田と火神の後ろを着いて行きながら、黒子はあのまま別れてしまい、あれ以来二度と会っていない少年を思い出して、静かに瞼を閉じた。
母も亡くなってしまい、故郷もない自分を支えてくれている、確かな存在に想いを馳せながら、黒子は首から下げたままにしている橙色の魔石をぎゅっと握りこんだ。
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PIXIVより再録。

今回からは火神くんがたくさん出る予定です。
というか出ています。次回は赤司さんちょこっと出します。
こうね、出さないと赤黒名乗っちゃあかんかと思いまして…。


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