だれさぶらふぞ 男子校で寮に入っている設定 中学一年生の設定で、今のところ赤黒以外では黄瀬の友情出演くらいです 01:東棟1階302号室にて 寒い日本海側に位置するこの地方都市の全寮制の男子高校に入学することになった黒子テツヤは、入寮のさいに希望の寮の抽選に溢れてしまっていた。地元の友人に「同じ部屋に慣れるといいッスね〜」なんて言われていたのが懐かしい。 この古い歴史のある寮のなかでも最古とも言えそうなほど年季の入った寮に、黒子は入らなければならない。しかもこの一番古い寮は、友人などが抽選で入れることになった、元は黒子も入ろうとしていた寮とは違い大人数部屋ではなく少人数である。つまり、二人部屋である。 しかも黒子が入る予定の寮は、入学前に「あそこの寮はマジでやばい」とか「二人部屋なのに独房みたいな部屋」、「幽霊が出た」などというろくな噂をきかないものなのである。 抽選で溢れたらその余り物の寮――――これは入学予定者にとっては当たり前の認識なのだが、いざその通知が自分の元へ来るとなると、別物なのである。 隣りで抽選に当たり入寮許可の下りた黄瀬は、自分の落選用紙を見つめて落ち込んでいるようすの黒子を慰めるように殊更に明るい声を出した。 「もっ、もしかしたら意外と入ってみたらいいとかあるかもしれないッスよ?」 「……君はいいですよね。入れるんですから」 暗い声で返す黒子に、う、と黄瀬は言葉を詰まらせた。 入寮許可を自分はもらっているだけに、どうやって慰めればいいのかわからない。そして気まずい。 「ああ…なんで入学前からこんな鬱にならなきゃいけないんでしょう」 「まだ鬱になるって決まったわけじゃ…」 「決まってますよ…。あそこの寮って独房って呼ばれてるんですよ?」 暗い声で黒子がそう言うと、黄瀬は苦い顔をしてそれでも変わらず黒子を慰めるような言葉を投げかけた。 黒子も優しい言葉をかけてくれる黄瀬の気持ちもわかってはいるのだが、なんせ当事者は自分で黄瀬はさらっと入寮許可書を手に入れている。すんなりと受け入れれるはずもなかった。 ちらちらと視界に横切る黄瀬のやたらと心配そうな表情に黒子はついには気持ちにケリをつけた。そうだ、もう諦めよう。 「僕の運がなかったということで……しょうがいですよね」 わずかに黒子が微笑みを浮かべれば、黄瀬もぱあっと明るい顔をして強く頷いてきた。 「もしそんなに嫌だったら俺の部屋に来ればいいっすよ!」 「よその寮に無断で入ったら罰則ですけど」 え、と黄瀬は顔を引き攣らせて肩を竦ませた。 *** 黒子の不安は的中した。 噂の梅風寮に訪れるやいなや、まず癖のある寮監督に出会うことになった。太い眉毛に血色のあまり良くない肌色、なによりどこで切ったのかというレベルでざっくばらんに切られた眺めの髪の毛とその寮の古めかしさと隠れもしない陰鬱さに黒子は気が滅入りそうになってしまった。 「お前の部屋は北側の棟の端の部屋だ。……まあ不便なことは多いかもしれないが原則、部屋の変更は出来ない。どうしても嫌だったら下宿先を探せ」 ぽいと薄い紙を放り投げられる。滲みがちなインクで大きく下宿先の住所が書かれていて黒子は気乗りのしない気持ちでそれを受け取った。 家から持ってきた当面の生活用品を突っ込んだボストンバッグを肩から下げながら、黒子は言われたとおり、北側の奥の部屋へと足を運んでいた。 渡された鍵を鍵穴へ差し込んで、まわすとあっけなく開いた。けれど建てつけの悪い木製のドアはぎしぎしと不穏な音を立てながら来訪者を招き入れる。 「…………っげほッ…!」 埃にこほんこほんと何度か咳き込んで、黒子は部屋を見渡した。家から送ったダンボールがもう部屋に運ばれていて、古い木造のベッドの上に似つかわしくない新品のマットレスが敷かれている。 カーテンもなにもつけられていない窓から眩しすぎるほどの西日が差し込んできて、ふわふわと輝きながら漂う埃が視界にはっきりと見れた。黒子はとりあえずマットレスに腰かけた。 同室になるはずの相手はまだおらず、というよりかは同室の人間は存在するのだろうか。対のように置かれているベッドに新品のマットレスはなく綺麗に片付けられていた。 大き目の学習机はふたつあるけれど、黒子が使う予定のほうのものではないほうに、人の気配はない。 まあ余りものの寮であるし、入寮希望者も少なくて当然だろうし二人部屋だが同室の人間がいなくともなんらおかしいことはないと黒子は結論付けた。 だから、黒子はびっくりした。いつの間にか、見知らぬ少年が目の前のベッドに腰掛けていたからだ。 「!」 思わず声を出せず、目を見張ったまま見つめていると、座っている少年――髪の毛が燃え上がった炎のように赤く目が吊り上がった――が話しかけてきた。 「初めまして」 声はどこか遠くから聞こえているのかのような感じがした。 黒子は少年の突然の出現に驚きながらも同じように返した。 「……初めまして」 「新しい入寮者かな。僕は赤司征十郎。よろしく」 薄く白い手が差し出され、黒子はそれを握った。ひんやりとした冷たさにわずかにぞっとした。 「ボクは黒子テツヤです。…ビックリしました。いつ部屋に入ってきたんですか?」 首を傾げて問えば、少年は意味深に微笑んだ。 「はじめからいたんだ。気付かなかった?」 さも当然のようにそう言うものだから、黒子はそうなのかと思ってしまった。 「はい。すみません」 「謝らなくていいよ。そういうものだから」 怒っていない風な少年、赤司のようすに黒子はほっとした。 赤司の口ぶりから察するに、赤司は常日頃自分と同じようにまるで存在を見過ごされてしまうことがあるかのようなことを言っている。だが、赤司を目の前にした黒子からすれば赤司は体躯こそ小さいかもしれないが、存在感で言えば友人の黄瀬くらい目立つタイプだと思った。 だから赤司の言葉が不思議でならなかった。 ぱっと黒子は顔を上げた。 「そういえば君この部屋の――――…あれ……?」 いつの間にか、赤司の姿は消えていた。 いきなり姿が消えたものだから、黒子は驚いてベッドから立ち上がった。きょろきょろとあたりを見回しても、たいして広くもないこの部屋に、ましてや物もとくに揃ってないこの場所では隠れることすらできない。 すぐ近くのドアノブをひねって、寮の廊下も見る。やはり赤司の姿はない。 「………………?」 狐につままれたような気分で、黒子は首を傾げた。 さっきまで喋っていたのに、いきなりいなくなってしまった。うんうんと唸りながら理由を考える黒子の脳裏に、ある一言が過った。 この寮は、出るらしい、と。 02:連続性に欠ける 「えっ。黒子っちの部屋、出るんスか!?」 「はい」 朝の食堂、黒子はダシのきいた味噌汁を飲みながらわめく黄瀬に向かって頷いた。 怪談話はあまり得意ではない黄瀬が、口元を歪めて、まるで幽霊を見たのは自分でもあるかのような顔をしている。 それを一瞥して、黒子はやや焦げた卵焼きをつついて口に運んだ。 「うわ、うっわー…なんで落ち着いていられるかわかんねーッスわ…」 箸をとめてこちらをじっと見つめてくる黄瀬に、黒子は肩をすくめた。 「言い過ぎました。本当を言うと、単に彼が誰か結局わからなかったからそう思っているだけなんですが…」 「それ、十分怪しいから!」 ダン、と強く机をたたいたせいで、隣りのほうに座っていた別の生徒が黄瀬と黒子に白い眼を向けていた。 すんませんッスーとたいして気持ちのこもっていない謝罪を寄越して、黄瀬はもう一度黒子を見た。 「名前もわかんなかったの?」 「いえ……けど、こちらの寮にそんな人はいなくて」 東棟、西棟両方の寮をぐるりとまわって部屋のドアの横にある名札を見ても、赤司なんて名前の生徒は存在しなかった。 寮監である花宮に聞くことも出来るが、なんとなく虫が好かないので聞きたくはない。 「んー…じゃあ俺の方の寮の人とか!」 「原則、他寮へ行くことは禁止されてるのに?」 「破るやつだっているから規則なんスよ。そうだ、名前は?」 「赤司征十郎、と言っていましたね」 塩じゃけを箸でほぐして口に運んだ。すこし塩辛い。 「アカシ…赤司? うーん。聞いたことないなあ。同じクラスじゃあないッスね。少なくとも」 かつお節とネギと醤油のかかった冷奴を取り分けて口に運んで黄瀬が首を傾げた。 「まあ、そのうちわかるんじゃないスか。同学年っぽいんでしょ?」 「はい――」 そう黒子が言いかけたところで、こちらをじっと見てくる視線とかち合った。 ぱちぱちと黒子が瞬きをして、よくよくその人物を見る。が、どう見ても知り合いではなかった。 なんだろう、と思い黄瀬に視線を戻すが、やはりその人物がこちらにひたすら向けてくる視線が気になって落ち着かない。食も進まなくて、黒子は食べる手を止めた。 黄瀬が不思議そうに黒子を見ている。 「黒子っち?」 ガタ、と椅子から黒子は立ち上がった。 いつの間にか、先程までこちらに視線をやっていた人物がいなくなっていた。 「………………」 さっきまでいたのに、いない。 黒子は驚いて呆けたままそのまま立っていた。本当に、いつの間にか消えていた。つい、ついさっきまでいたはずなのに…。 「どうしたんスか? 冷めるッスよ」 首を傾げる黄瀬に、黒子ははっと我に返ってごまかすように笑った。 なんでもありません、と口にしながらも脳裏には先程の姿がうつった――――けれど、その人物の姿が一向に思い出せなかった。 *** 黒子はそれからも赤司という人物を探したが、見つかることはなかった。新入生歓迎会のときに一通り同じ学年の生徒を見る機会があったのだが、やはりそこに赤司はいなかった。 それでも月日は黒子に赤司という人物が初日に話しかけてきたということを忘れさせていった。最初の一か月こそ気にしたものだったが、月に一度はある定期テストも入り、頭の片隅にくらいしか存在しなくなっていった。 学業や行事ごと、様々なイベントの類が入学したばかりの黒子にとって目まぐるしく迫ってくるものだったが、そのなかでも黒子にとって学校に入ってから楽しみとなったのはバスケットボール部だった。元々小学校のときからミニバスはしていたのだが、中学になってからは黄瀬も入ったり、バスケ部内でも新しく親しい友人――青峰が出来たりと黒子の学校生活は充実していた。 入っている寮が最悪と評されている梅風寮と言えども、そんなことも気にならないくらいに。 「久しぶり、黒子君」 夜九時半、寮の規則で夕食後の夜八時から十時半までは二時間半の半強制的学習時間と定められているのだが、そんな中、赤司は現れた。 前回と同じように、いつの間にか部屋に入ってきていて、いつの間にか向かいのベッドにちゃっかり座っている。 「…………………」 驚いて声も出ない黒子に、赤司は苦笑した。 「あれ? 覚えてないのかな」 実に一か月半ぶりの再会である。黒子は瞬時に当時のことを思い出し、赤司からわずかな距離をとった。 「あの……」 胡散臭げに黒子は赤司を見つめた。 「もしかして…」 「なにかな」 「幽霊とかですか?」 赤司が黙った。そして、黒子の顔をじいっと食い入るように見つめると、くくっと笑って首を横に振った。 「幽霊ではないかな。似たようなものだけど」 「似たようなもの……」 繰り返して呟いて、黒子は赤司の足元を見た。足はあった。 そんなようすを眺めながら、赤司はちらりと壁に掛けてあるカレンダーを見た。 「いまは五月だ」 唐突な言葉に、黒子は意図がわからずぱちくりと瞬きをした。 「俺が君の前に現れたのが…前回、四月だね。入寮の日だろう? いまは部屋も生活感が出てるし、なにより君自身よくここに馴染んだ風だ」 「はあ」 「君は俺と会うのは久しぶりだろうけど、俺にとってはまったく久しぶりじゃない。昨日会ったような気さえする」 「会ってませんけど」 「それはいい。置いといて。俺が言いたいのは、俺にとってはいま君と会っているのは翌日のような気分だって言うことだ。不思議だろう?」 そう聞かれても、と黒子は思った。 赤司の発言の意味がよくわからなかった。 「というか、結局君は何者なんですか? 幽霊じゃない似たものなら、いったいなんですか?」 まだ話しを続けようとする赤司の流れをぶった切り、黒子は問いかけた。 黒子の言葉に、赤司は猫のような吊り上がった瞳を細めて、無表情に口を開いた。 「生霊だよ」 - - - - - - - - - - PIXIVより再録。 なんで赤司を生霊にしたかっていうと死んでないからです。 |