初めて見るおんなのこ
リョーマ♀ in 四天宝寺
最終的に、白リョ♀になる予定です

つんとすましたその生意気そうな表情と言葉に、白石は度肝を抜かれて穴があきそうなほどその顔を見つめてしまった。
「ということで、あんたの聞きたいことはこれくらいのことだと思うけど…」
冷ややかな声で言われて、白石は慌てて首を横に振った。
いつの間にか、リョーマはさっさと白石の元から去ろうとしている。その華奢な肩をつかんで振り向かせて、白石は叫ぶように言った。
「待つんや、越前さん!」
「…………………」
苛立ちをまったく隠さず、いや、むしろ青筋さえ見そうなほど不快感を示す顔に、白石は顔が引きつりそうになった。

「あ、あのなぁ…」おもわず白石は、一年生相手に堂々とした態度で接せずにいる。

それを見越したように、リョーマはふっと口元に笑みを浮かべた。にやりともとれる笑みは、なぜだか見た相手を緊張させる。
ぐいっと一気に距離をつめたリョーマは、白石を見上げる。
「部長が新入部員に負けるって、すごく腹が立ちそうなことだけど…あんたはどうなの? 部長サン」
「えっ」
リョーマの突然の言葉に、白石は合点がいかなくきょとんと目を丸くしてリョーマを見つめた。リョーマはこちらを見て、ひらりと腕からすり抜けた。

「今日の放課後、ここから三駅離れたテニスコートで待ってるから」
いたずらそうな表情を浮かべてこちらを試すように見つめる瞳に、白石は我に返った。
「どういうことや?」
不思議そうな表情を崩さない白石に、リョーマは肩を竦めた。
「部活が終わってから来いって言ってるんスよ。それくらい、わかってほしいんスけどね……」
困ったように、仕方ないなあと溜息をつくリョーマに、白石はよくわからないまま頷いた。なんでこういう話になっているのか。
すると、後ろで大人しくしていた金太郎が騒ぎ出した。

「なんや〜! やっぱり白石抜け駆けするんやないかあ、ひどいんやけど!」
「ええっ。なんのこっちゃ?!」
「コシマエとの試合や! ワイやってまだ一回しか出来てへんのにぃ…」
くすんと鼻をならした金太郎に、白石はやっと理解した。なるほど、さっきのは試合の約束だったのか。
渦中の人物、リョーマがいる方をぱっと見ればすでにそこに本人の姿はなかった。
一年生たちが集まる階で、白石は金太郎にしがみつかれながら泣かれながらさらされることになったのである。

***

白石は部活を終えた後、リョーマから言われた通り三駅離れた場所のテニスコートに向かっていた。いつもとは進行方向の違う電車に乗りながら、白石はぼんやりと宙を見つめた。
あの少女に言われた通り、へこへこと向かっているところだが、冷静に考えるとなぜ自分がここまでほかの部活の問題に首を突っ込んでいるのだろうかと思ってしまっていた。
夕暮れを過ぎ、夜の気配を見せようともする空を眺めて、車内の案内電光パネルを見て、溜息をつく。
やっぱりはじめにはっきりと断れば良かった、と白石は思った。もちろんトラブルが起きているのだから厄介な人物には変わりないのだが、どうも一癖二癖三癖くらいありそうだ。

まったくもって浮かない顔で、白石は電車を降りた。
きょろきょろと見慣れぬ駅を見回しながら、駅の周辺案内図を眺めて近くにあるらしいテニスコートの場所を認識する。そこはすぐに見つかって、ここから数百メートル離れたところにあるらしかった。
その地図を携帯電話で写真を撮ってから、画面と睨み合いをしながら歩き出す。

あまり行く気がしなくなってしまったせいか、のろのろとしたやけに遅い歩きでやっと着くと、そこには意外にも多くの若い少年少女が集まっていた。
自由に使えるテニスコートであるためか、地区大会でも見たことのある学校の紋章などが入ったバッグをもっている制服姿の学生もいる。
顔見知りはいないように思えるが、白石はなんとなく後ろめたかったせいか、そろりと目立たないように歩く。

目的の人物はすぐに見つかった。テニスコートの奥の生垣の端で、ぼんやりといまやっている試合を見つめながら物思いに耽っているような顔をして座っている。

「越前さん」
白石の声に、リョーマは顔を上げた。
「…こんばんは」
それだけ言うと、まったく興味ないとでも言いたげに顔を逸らした。瞳はテニスコートを見つめていて、白石は声をかけ辛くなってしまった。
おろおろと白石が視線を右往左往させていると、コート内から歓声が沸き起こった。
どうやら、いまやっていた試合が一つのテニスコートで終わったようだった。次に試合をしようといそいそと準備する少年たちを見ていると、突然リョーマが立ち上がった。

「次、俺が使うから」
そうリョーマが言えば、ラケットを握ってコート内に行こうとしていた少年たちは「ああ、やっと相手来たのか?」と言った。うん、と短く言ってから、リョーマが白石の方へと向いた。

「はやく、コート入って」
「今から試合するんか?」
驚いたように白石が目を見張れば、リョーマは頷いた。
「話は? そのことを聞きたいから来たんやけど…」
困ったように白石が言うと、リョーマはまあいいじゃんと言った。
「これが終われば話すから。まずはあっちのコートに行ってよ。部長サン」


ここまでだね、と笑って汗を拭う姿に、白石はぼうっと見入ってしまった。
コートのまわりからは拍手が聞こえてきて、わっと歓声も聞こえる。そこらにいた少年たちに背中をばんばんと叩かれながら笑顔を向けられながらも、白石の意識は向こう側のコートにいる少女に向いていた。
お互いに歩み寄って、ネット越しに握手をする。

「……君、たいしたもんやなあ」
しみじみと呟けば、リョーマは何食わぬ顔で肩を竦めた。
「…そっちこそ。さすが遠山の首に紐をつけてることはあるッスね」
冗談交じりにそう言えば、白石はおかしそうに笑った。

次に試合をする人たちに場所を譲るため、二人はコートから離れた。先程の試合に興奮したのか、話しかけたそうにこちらをちらちらと見ている人もいるが、白石はそれを避けるためにリョーマを連れて、更に奥にある自動販売機へと向かった。
小銭を投入口に多めに入れながら、白石は横で突っ立っているリョーマをに聞いた。

「なにがいい?」
そう聞けば、リョーマはぼそっとした声で「ポンタ」と言った。
紫色の缶のボタンを押して、白石は自分用に別のを押した。ごろんと出てきた缶をつかんで、リョーマに向かってそれを渡した。
「……どうも」リョーマは軽く首を前に倒してお辞儀の真似事をすると、プルタブをあけた。
乾いた喉を潤して、口を開いた。

「あの、」
「そう。それで越前さん、女テニの話なんやけど…」
言葉がかぶり、二人は無言で互いを見つめた。
しばらく静寂が支配して、先に白石が口を開いた。
「うん。だから、女テニの話な?」
こほん、と気恥ずかしさを紛らわすようにしながら白石はリョーマの返答を待った。
リョーマはううんと唸ってから「きっかけは、俺が部長に勝ったから…かな」と言った。

「勝った?」
「うん。ちょっと前に、大会前のレギュラーを決めるために…。それで、俺と部長があたって俺が勝ったんスよ」

へえ、と白石は感心したような声をもらした。先程軽く手合せして思ったが、やはりこの少女、なかなかの強者らしい。
白石は唐突に、先程終えてしまい話を優先させてしまったことを後悔した。もう少しやればよかったかと思ってしまう。
これでは金太郎となんら変わりないなあと思い苦笑を漏らした。

「まあ、新入部員に負けるっていうのはショックなのはわかるッスけど……」
缶を呷りながら、リョーマは困ったように眉根を下げる。
「…そういう怒りをぶつけられても、どうしようもないんスよ」

ちらっとリョーマから視線を向けられて、白石は視線をぶつけながらも先程の言葉への返答に迷っていた。ここでリョーマに同意してしまうとなんだか話を進めにくくなってしまう気がするし、かといって聞いている限りリョーマに全面的な非があるわけでもなさそうなので、白石はほとほと困ってしまっていた。
だから女テニの部員の子がわざわざ頼んできたのかなとも思った。彼女はきっと、リョーマの言い分がわかっていたのだろう。
女テニの部長はそこまで酷い人間ではないと白石は知っているせいか、どうしても返答し難くなるのだ。
ここまでこじれてしまったのは、ひとえに試合の勝ち負けだけではなく、リョーマのこの尊大とも取れる態度のせいだろう。部活の先輩後輩というものは、なかなか厳しいものだ。
白石は個性的な部員に囲まれているせいで、たとえば一年生の金太郎がいくら白石を先輩扱いしなくとも気にらないのだが、こういう一種目立つような後輩は女テニとっては珍しいものでコブのようなものに見えたに違いない。

「先輩だからどうだとか、そういうのってすごく面倒くさい……。だから、少しだけ遠山が羨ましい」
ふっと白石はリョーマを見た。なんとなく、この少女に羨ましいという言葉が似合わないと思ったからだ。
横顔は哀愁帯びていて、瞼はやや伏せられている。
「他の先輩からも、どちらが悪いにしろ俺が一言謝ればそれだけでだいぶ違うからとりあえず謝ってほしいって言われたけど…それっておかしいって思って。だって、そんなこと言うって俺が悪くないって第三者の目から見てもわかってるってことッスよね? …じゃあ謝らなくていいじゃんって思うんスよ」
「……………………」
そうだなとも違うとも返答できなくて、白石は困り果てた。
けれど、リョーマは白石の返答は期待していないかのように待ち望む気配を見せていない。

「ごちそうさまでした」
いつの間にか、リョーマは立ち上がっていた。飲んでいた缶もゴミ箱におさまっていて、白石はてのひらに小銭の感触を感じてそれを見た。百円玉と十円玉がいくつかあって、白石は慌ててリョーマを見た。
「奢ってもらうの悪いし、返しとくッス。後、…やっぱり、部長とのことに口出すのはやめてほしいんスよ」
口調も表情も、思ったより優しかった。けれど関わらないでほしいという断固たる決意が見え隠れしていて、白石は頷いてしまっていた。

「あんたとするの、面白かったよ。まだ、したことのないタイプで」
一瞬何のことを言っているのかわからなかったが、名残惜しそうにテニスコートを見つめているのに気付いた白石は先程のことを指しているのだと理解した。

「……越前さん」
白石は、リョーマに声をかけていた。続く言葉は見つからず、もごもごと訳のわからないことを言っている。
そんな白石を、仕方なさそうに見つめて、リョーマは肩を竦めた。
「誰か先輩に頼まれたんだろうけど、もういいよ。俺がダメだったから部長の方にでも行くつもりかもしれないけど……たぶん、意味ないだろうし」
長い長い溜息をつく。

「でも、俺は君んとこの先輩に頼まれたんや。だから、途中で放り出さん」
リョーマが、困ったように眉根を下げた。
そして、少し苛立ちをまじえたような顔をして、白石を見上げた。
「いいよ。勝手にすれば。どうせ、何にも変わらないよ」
ふん、とつっけんどんな口調と態度で言うと、リョーマは踵を返した。白石が後ろから声をかけたが、リョーマは振り向くことなく去ってしまった。
残されたのは、すこしのジュースが入ったまま悩んだ顔をしてベンチに座り込んでいる白石のみだった。
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続きにとても悩んでいます。


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