002:初恋猶予期
赤司は17歳のサトラレ
黒子はサトラレ対策委員会の人間で、誠凛も同様です
黒子(23)が高校生になってサトラレ赤司のために奔走する話(大嘘)

最近、サトラレである赤司の思念波がおかしい。
黒子はそう思いながら、バスケ部のメンバーと昼食を取っていた。この中で自分が対策委員会のものであると知っているのは、バスケ部の副主将である緑間だけだ。だからサトラレ対策委員会の一員として動くときに、緑間の協力は必須である。
だが、緑間に協力を仰ごうにも解決しようのない問題が、いま、黒子の前に立ち塞がっていた。どうにも崩しようのない難攻不落の――――

( 昨日より隈が増えた。寝てないのか? )
思念波で伝播する赤司の思考に黒子は気まずくカレーをすくうスプーンを噛んだ。
( 肌が青白い……けど、綺麗だ )
と、突然思念波に思いもよらない言葉が混じり、黒子は大きく咳き込んで俯いて顔を逸らした。
「おい、大丈夫かよ。テツ」
赤司の思念波の言葉に笑いをこらえるような顔をしながら、青峰が心配するような言葉をかけてくる。けれども肩に添える手が震えていて、黒子は顔をしかめて青峰を睨んだ。

「大丈夫かい? 黒子」
( 俺が隣りに座れば良かったな… )
首をわずかに傾げて口では心配する言葉を発しているのだが、送ってくる思念波が思念波なので黒子は素直に頷けずにもたもたと手間取りながら、なんとか「だいじょうぶです」とたどたどしく返すだけだった。

「も、もうお腹いっぱいなので失礼しますね……」
これ以上いるといま以上に赤司の思念波により動揺してしまいそうで、黒子はボロが出る前に退散して一度冷静になろうとした。
そう、サトラレの赤司の異変とはこれである。
数日前から、赤司の思念波に黒子に対する奇妙な文言が混じるようになってしまったのだ。
サトラレの思念波はうそをつかない。それは万人が知っている疑いようのない事実。
だからこそ黒子は困り果てていた。
サトラレの思念波がうそをつかないということは、どれだけ赤司が平静な顔でいようとも、そう思っているということだからである。
春から赤司の同級生としてこの学校に通い赤司の友人になってからというものの、このような不可思議な思念波はここ最近が初めてである。対策委員会の一部も黒子を一度下げるかどうか検討しているらしく、黒子はこの思念波に耐えつついつも通り赤司の警護をするしかなかった。

「俺も担任に呼ばれている。行かなければならないのだよ」
そう言って立ち上がった緑間は、先に椅子から腰をあげていた黒子に目配せをして食堂を出ようとした。
が、そこにも赤司の思念波が届く。
( 怪しい。あの二人、なにかあるのか? )
どきっと黒子は思わず心臓が跳ねた。やはり、赤司は異様に勘が鋭い。

食堂を出てから思わず黒子は緑間を小突いた。

「すごいバレバレじゃないですか」
「しょ、しょうがないのだよ。だが……あんなことを聞かされてお前が冷静でいられると思えなくてな」
眼鏡のブリッジを抑えてそうぼそぼそと言う緑間に、瞬時に黒子は微笑ましくなった。自分より背丈も大きく賢いが、彼が自分より年下の十代の少年であると再確認したのだ。
この素直でない少年は、意外にも心根が優しいのである。

「心配してくれてるんですか? ありがとうございます。けれど…大丈夫です。これも僕の仕事ですから」
そう、自分はサトラレ対策委員会のものである。サトラレの思念波に、左右されてばかりでいてはいけない。

「しかし赤司はいったいどうしたのだろう。突然黒子に対してあんな……その、思慕するようなことを…………」
恥ずかしげに口にした緑間に、黒子は苦笑した。

「さあ。よくわかりません。ただ…これが続くようなら僕も一旦下げられる可能性がありますね」
さらりと言った黒子に、緑間が驚いたように目を見張った。
「そういう話が出ているのか」
驚いている緑間をよそに、黒子は頷くのみだ。
「彼はサトラレですからね。国が守るべき人材――僕みたいにいつでも替えのきく職員とは違いますから。それに、サトラレを本来相応しい道に進ませるというのも委員会の存在意義ですから。間違っても同性愛者にするために僕がいるわけじゃないですし」
苦笑した黒子に、緑間はなんと返すべきか迷った。
その逡巡に気付いた黒子は、深く考えないでください、とひそやかに笑った。

「数日もすれば委員会からお達しが来ます。もしかしたら僕もそのときはいないかもしれませんね」
「……………………」
「バスケ出来て楽しいですし、ちょっと心残りですけど。仕方ありません」

その割り切ったようすの横顔に、緑間は黒子が自分よりも年上の青年であるのだと感じた。
幼顔なのに浮かぶ表情は大人の風で、緑間は少しばかり彼に想いを寄せている赤司のことがかわいそうに思えた。いくら赤司の思念波に動揺しても黒子にとって赤司は警護対象のサトラレでしかないのだろうから。

***

「まだ僕はここにいることになりましたよ」
「!? っお、驚かせるな…黒子」
「どうもすみません」

黒子がいなくなるかも、なんて言っていた数日後に、黒子は後ろから気配を殺して忍び寄り緑間にそう告げた。
黒子の突然の出現に驚いた緑間は、危うく本を落としかけていた。そのごまかしか、下がってもない眼鏡のブリッジを押しながら緑間が非難めいた口調でそう返すと、黒子は懲りてもないようすで適当に謝っていた。

「てっきりやめると思っていたのだよ。思わせぶりなことも言っていたしな」
本を物色しながら黒子はちらりと横の緑間を見た。
「僕もそうなると思っていたんですが、ちょっと予想外なことがおきまして」
なにやら意味ありげな視線に、緑間は黒子に向きなおった。

「緑間くんって赤司くんと小中も一緒なんですよね?」
「ああ。そうだ」
黒子に聞かれて緑間は幼少期を思い出した。親同士が知り合いで小さい頃から赤司とは友人関係だが、幼少期のころはもっと赤司の思念波に悩まされたものだ。子供というのは正直だから困ることもある。しかも、その思考は隠されずに本人に伝わってしまうのだから。

「赤司くんって、同級生とかに恋したことってあったと思いますか?」
思わぬ質問に、緑間は空いた口が塞がらなかった。
ぽかんと間抜けな面を見せたままの緑間を放っておいて、黒子は続けた。
「まあ、そういうことですよ」
なにやらやさぐれたようすでそう言った黒子に、我に返った緑間が頭を抱えて顔をしかめた。

「いや、なにがそういうこと、なのだよ。全然意味わからないのだよ」
訝しげに問う緑間に、黒子はじとっとした視線を向けて肩を竦めた。

「人間形成というものは、複雑なものでして」
「赤司くんはまあ…ああいう性格というか頭も良いですし…。ちょっと人と違うじゃないですか」
「だから初恋もまだだったみたいで」
「僕が初恋の相手というやつになるわけですよ」
「同情した委員会の一部の人たちが初恋くらい味あわせてやれよとうるさくですね」
「ここにまだ残ることになったんですよ」

カチコチカチコチコチ…と時計の針が進む音が鮮明に聞こえる気がした。
緑間は約1分間棒立ちで頭を抱えたままの恰好で固まっていると、ようやく解凍したのかくわっといつにない表情で黒子を見た。

「意味がわからないのだよ。つまりは……赤司の初恋を成就させよということか」
「違います。それに僕は同性愛者じゃありません」
ふう、と溜息をついて黒子は手に取った本を持って机に移動した。

「まあ、赤司くんもそのうち気付きますよ。女の子に恋する方がいいってことにね」
そうでなければならない、と黒子は思った。
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PIXIVより再録。

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