女子中学生は異常
真リョ♀です
どちらかというとこのリョーマ♀の愛は重いです


「ああ、弦一郎。日誌のほうは今日は俺が書いておくからお前は先に帰っていいぞ」
ふと聞こえてきた会話の端に、なんだか意外なことが含まれていたせいか、ブン太は着替えていたロッカーから顔を離して聞こえてきたほうへと向いた。
そこには日誌をつけながら難しい顔をしていた真田と、もう着替え終わりすっかり荷物もすべて片付け終えてこれから帰ろうか、という風貌の柳が立っていた。笑みを含んだ表情は、なんだかすこしおもしろおかしそうに笑っているようにも思える。
その柳の言葉に、真田はてっきり拒否するとおもっていたのに、真田は珍しくも柳の言う言葉のままにその日誌を手渡した。表情は心なしか嬉しそうで、すこしだけ笑っているようにも思える。

「悪い、蓮二。この埋め合わせは必ずする。…すまない」
申し訳なさそうに頭をさげようとする真田に、柳は微笑んで見せる。
「いや、あそこまで健気に待っているのをみたら、せざるを得ないだろう」
慣れない見知らぬ学校の校門のそばではいるのをためらって、うろうろしている少女の姿を目にし、ついでに部活前だったこともあり声をかけていた柳はその少女が本当に真田のことを慕っているようすだったのを思い出して、微笑ましいようすから口元は緩んでしまう。

「待っているだろう。俺のことは気にせずに行けばいいさ」
「……う、うむ。そのつもりだ」
照れ隠しからか帽子を目深くかぶった真田に、少女の姿が重なる。
真田の耳朶が赤く染まっていて、見た目にそぐわぬ初々しさに、柳はうっすらと微笑んだ。
もう一度真田はすまない、と柳に言って走るように部室を出て行った。そうとう恥ずかしかったのだろうか。


かちかちと、シャーペンの上部を押しながらなにを書こうかと思案している柳は、うしろからにゅっとあらわれてその暇をもてあますようにしていたシャーペンを上から掻っ攫われた。

「柳ー。なんで真田あんなに急いでたんだよ」
くるりと指でシャーペンをきれいにまわして、ブン太は不思議そうに柳に聞いた。ちらりと目線をやるドアに、もう真田の姿はない。
「気になるのか、ブン太」
「もちろんだろぃ。だってあいつ真面目だし、いくら柳が言ったって大真面目に『当番制だから俺がやらなければなるまい』とかいってやるだろ?」
緑色の風船が膨らんではまた萎んで、膨らむ。
そのようすを眺めながら、柳は日誌へと視線をうつした。

「……そうだな。追いかければわかるんじゃないのか?」
「追いかければ、って……。俺、真田がどこに行ったとかしらねえもん」
むっとしてブン太が言えば、柳は「簡単だ」と言った。
「校門に行けばいい。弦一郎が急いだ理由も、見ればすぐわかる」
なんだか含みのある言い方に、ブン太は目を瞬いた。すこし楽しそうにもみえるそのようすに、ブン太はなにがあるんだろう、とおもった。

そして、視界にはいった茶色い頭に飛びつくように肩をまわして、校門へと向かった。


「おいおいブン太。いったいなんだよ……。俺、この後店の手伝いがあるんだけど」
ジャッカルが問答無用でぐいぐいと引っ張っていくブン太に呆れたように言いながら引きずられていく。ブン太はジャッカルのちょっと嫌そうな声にもかまわず、「ちょぉーっとだけだって。マジ、我慢してろぃ」と言って制止をきかない。
と、校門のところでこの付近では見かけないあかるい黄緑色のセーラーを着用した少女がひまそうに立っていた。
( あの子が、柳の言っていた、見ればわかること? )
ううん、といまいち理解できなくてブン太は首をかしげたくなった。おもわず足取りが遅くなったブン太に、ジャッカルの不思議そうな声が後ろからかけられる。

「あ。真田さん!」
ぱっと少女が目を輝かせて、真田の名前を呼んだ。喜色を隠していない表情と声はブン太とジャッカルを通り越した、先に出ていったのになぜか後ろにいた真田に向けられている。
おもわず少女の視線の先を追うようにうしろを見たブン太とジャッカルは、まずい、しまった、というような表情をした真田と視線が合致する。

「………………」
「………………」
お互いにかける言葉が見つからなくて、三人は沈黙する。そんな黙りこくってしまった三人を尻目に、校門から駆けてきた少女は真田のそばに走り寄って、さも当然のように真田の制服の袖をつかんだ。

「どうしたの?はやく行こうよ。部活、終わったんだよね」
不思議そうに首をかしげる少女は、真田が見て固まっているところへと視線をうつす。そこにはおなじように固まって真田のほうを見ているブン太とジャッカルの姿があった。
どうやらお互い知り合いのようすに、少女は首をかしげながら聞いた。

「……真田さんの友達かなんかっすか?」
固まったままの真田ではなく、ブン太とジャッカルに言葉を投げかけた少女はじっと見つめてふたりをとらえる。
ブン太とジャッカルは、少女に話しかけられて、我にかえったようだった。

「俺らは真田と同じテニス部だけど……きみは?」
動揺しながらも聞いたブン太は、うっすらと脳裏を横切ったワードに首を振った。まさか、そんなはずはないだろう。けど、柳がおもしろそうにしていたこともあって、その予想はあたっていたりするかもしれない。

「俺?俺は真田さんの――――もgッt!」
いつのまにか真田が少女の言いかけた言葉を遮るように口を塞いでいた。もごもごと、言いかけた言葉を遮られた少女は抵抗して、じろりと真田を見上げている。
「ちょっと!なんで最後まで言わしてくんないの」
すっぽりと真田の腕の中におさまるように少女は真田の胸に身を預けながら文句を言っていた。吊り気味なぱっちりとした猫目が可愛らしい、ショートヘアの小柄な少女だ。口調もあの真田にたいしてとてもフランクでかつ生意気であって、ブン太とジャッカルはいつこの華奢な少女にさえ鉄拳がふるまわれるんじゃないかとひやひやしたが、そういうことはなく少女の生意気な言動にも真田は溜息をついただけだった。

「お前は先に帰れ。……こいつらと俺はすこし話があるからな」
「話しって、なんの?ほんとにあるの?」
疑わしそうな目で真田を見つめて少女は、身体の向きを変えると口元に笑みを浮かべてブン太とジャッカルに声をかけた。
「あの、真田さんの言ってることってほんとなんすか?」
正直に言わなかったからどうなることやら、と鋭い視線を向けてくる少女に、ジャッカルとブン太は首を横に振って正直に反応した。すると、少女はくるりと向きを変えて真田のほうへと向く。

「ちがうらしいけど。どういうことなの?」
「いや……それは、」
気まずげに視線をそらす真田が、少女と目をあわせようとはしない。その珍しい光景に、おもわずジャッカルとブン太も食い入るように見てしまう。
「もしかして俺が来て迷惑だった?ならいますぐに電車に乗って帰るけど」
「それはちがう!ちがうんだが……」
「じゃあ何?言ってくれないとわかんない」
つんとした態度で言う少女は、顔立ちが整っているがゆえにその冷たい口調が余計に怖かった。小さいのに……こわい、そう思いながら怖々といったようすでふたりが眺めていると、横から楽しそうな声が割って入ってきた。

「あれ?越前さん。久しぶりだね……また真田と喧嘩してるの?」
にこにこと優しげな笑みを浮かべながらこちらへとやってきた幸村の姿に、みな同時に「あ」と声を上げる。

「久しぶりっすね。幸村さん」
ぱっと嬉しそうにして幸村のほうへと向いた少女は、真田の腕を引き離してぱっと幸村のほうへと走り寄る。それだけではなく、幸村のほうもまんざらでもなさそうに引き寄せるかのように腕を引くのだから、ブン太は混乱してしまう。あれ、この子って真田とじゃないのか?
よくわからない、と思いながらううん、とうなっていると引き寄せた幸村の腕から奪うように真田がその少女を腕の中におさめた。
眼前でされる展開に、ブン太とジャッカルはもう追いつけてはいなかった。
( つまり、どういうことだっつーんだよ。 )
疑問符ばかりが頭に浮かぶブン太とジャッカルは、おそるおそる幸村にたいして口を開く。

「あ、あのさあ幸村くん…その子、幸村くんの彼女?」
ブン太の質問に、幸村は行き場のなくした手を見つめながらにこりと笑った。
「いや、違うよ」
あっさりと否定され、じゃあ、とジャッカルが口を開く。
「まさか真田の彼女……?」
ジャッカルの言葉に、それでま真田の腕におさまりながらもぞもぞとしていた少女がぱっとジャッカルへと視線を向ける。
「yes!真田さんってばひどいよねー…さっき俺が言おうとしたら隠したいのか知らないけどこの人口を塞いできたんだよ」
頬をふくらまして拗ねたように言えば、幸村が頭を撫でながら「こんなに可愛いのに」とにこやかにほほ笑みながら言った。
その幸村の言葉に少女は乗っかるようににやにやと人の悪い笑みを浮かべて「だって。真田さん」と真田に話しかける。

「俺も別にお前が可愛くないから隠したいとかそういうわけじゃなくて……」
「ふうん。じゃあ可愛いとは思ってくれてんの?」
「そっそれはもちろんだ。越前」
うん、とうなずきながらさらりと言った真田に、少女は目を丸くさせたあと、頬を赤く染めて俯きがちにつぶやく。「ほんとに言っちゃうとか……」
ぎゅっと真田の袖を握りしめて、少女は「ばか」と真田にたいして小さく罵った。
そのようすがあまりにも可愛らしくて、あまりにもいかにもなカップルの光景だったからか、ブン太とジャッカルは呆れて物も言えずぽかんとその光景を見つめていたのだった。
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拍手小説でした。
真リョ♀ではなんだかんだリョーマ♀の愛が重いと思います(適当)


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