首輪の紐がほどけてる 急 義理?の兄弟で赤黒 赤司くん(16才)と黒子くん(28才)です ちなみに今回赤司くんの出番はありません 自分に生きる意味はあるのだろうか。 そう思って自暴自棄になっていたときに、唯一の希望としてこの家に舞い込んできた子供はいつの間にか青年へと成長していき、近いうちにもう手の届かない存在になってしまうのだろう。 それはおそろしいことで、ほら、いまも手が震えている。心臓が冷えて、息が苦しくなる。 永遠に君と一緒にいることができれば、それはなんという幸せなのだろうか。 けれど、それは君にとっては、決して幸せであるはずがないのだ。 壁にぶつかったアンティークのカップが派手な音を立てて割れた。もしかしたら、頬は破片で切れているかもしれない。じんわりと感じる痛みが、浸食していくような気がする。 きゃああ、なにをしていらっしゃるんです!旦那様! メイドが叫んで、執事が慌てて応急処置をせねばとばかりに慌ただしく動き出す。その最中、頭だけはやけに冷えていて、カップを投げつけてきた父親の顔を再度見つめた。そこには憤慨と侮蔑の表情がにじみ出ていて、いつもなら無表情なその顔が、激情に左右されていることに、わずかな優越感を感じた。けれど、奥底ではよくわかっていた。この事態が、どれほど深刻かということに。 すすめられていた、高校の同級生であり、新たに婚約を結ぶ予定だった女性との縁談は破談になってしまった。それも致し方ないだろう。自分には、結婚をし、子を生すということができないのだから。相手の女性も、結婚したとしても迷惑でしかないだろう。 それでも、日々が過ぎるにつれて焦りを滲ませ、時折自分に猛烈にあたってくる父親には困った。父親が、黒子家の血をもった正統な後継ぎがいないことを懸念しているためだった。 「テツヤくん、こんなことしてていいの? お父さん、怒らないの?」 そんなことを言いながら、年上の男は、微笑んで抱き寄せてきた。腰あたりに這いまわる手をわずらわしく感じながらも、テツヤはあくまで嬉しそうに見えるよう微笑んだ。 「いいんです、父は僕のことなんか気にしていませんから」 にっこりと笑って首を横に振ると、盛りのついた動物のように男は喜んで服を脱がしてくる。素肌をさらしながら、這ってくる無骨な手と分厚い、生ぬるい舌にテツヤは女のように喘いだ。 気持ちよい行為。セックス。それは男女が、夫婦が、子供を生す行為。じゃあ、男同士は?いったい? 「んぅっ…あ、そこぉ…もっと下のほうにっ…」 ねだるように言えば、男は喜んでそこをしごいた。前々からねっとりした厭らしい目つきで自分を見ていた男は、股間を膨らまして尻にそれを擦りつけてくる。 はあはあと荒い熱っぽい息が部屋を支配して、自分も男の手の中でしごかれるがままに精を吐き出す。 「出ちゃったねえ、テツヤくん。君の白いおちんぽミルク……」 咄嗟に気持ち悪い、そう思った。けれど今更やめる気もおきなくて、テツヤは男との行為を続行した。 偶然にも、男から与えられる性的刺激は確かに感情とは無関係に自分を気持ちよくさせた。一度も異物をいれたことのない後穴に、男の膨張しきった自分とはちがう肉棒を突っ込まれ、痛みと喪失感にテツヤは泣きながら耐えた。 やがて絶頂を迎えた男が、自分の後穴に肉棒を入れたまま果て、どろりとした液体を放ったのがわかった。奇妙な感覚に、テツヤは恐怖から震えた。 その震えを勘違いしたのか、男が猫なで声で「テツヤくんはかわいいねえ、」と言った。 「…、そう……ですか…?」 にやりと笑ったテツヤは、その奇妙な笑顔を男に向けた。男はたいしてなにか思うこともなく、テツヤの言葉にうなずいた。 「ああ。でも夢を見ているようだ。君のような良いところのお坊ちゃんが男好きで、しかも俺に抱かせれくれるなんて」 それから数日して、テツヤは執事に男を解雇させた。テツヤを抱いた男は、テツヤが高校生になってから雇い始めた家庭教師だった。教え方が上手くない、そういえば執事は慌てたように「すぐに代わりの者を用意いたします」と言ったのだ。 そして、テツヤはまた数日して、代わりでやってきた、あの男より若い、まだ大学生か出たてくらいであろうか、という男を目にして笑った。 「はじめまして。新しい家庭教師さんですよね。よろしくお願いします」 にこりと笑って人畜無害そうな高校生を演じれば、若い男は安心したように胸をなでおろしたようすで隣の用意されている椅子にこしかけてきた。 「ああ。はい。テツヤくん……じゃあ、はじめようか」 参考書を開きかけて、テツヤはそれを制した。若い男は不思議そうにテツヤをながめて、もう一度テツヤの名前を呼んだ。 「本当は、勉強を教えてもらいたくて、来てもらったんではないんです」 本に置いたままの手の上からそっとてのひらを乗せて、甘えるようにぎゅっと握りしめると、男はびくりと身体を揺らして見つめてきた。あの、と言いかけた言葉をふさぐように口を開く。 「あなたさえ良ければ……僕と、」 *** それからも、テツヤの悪行がおさまることはなかった。悪行といっても、それは世間一般でいうようなものと完全に一致するものではない。しかし、テツヤの父親からしてみればその行為は迷惑でしかなかった。男をとっかえひっかえ家に連れ込み、しまいには高校も休みがちに。学校には多額の寄付金を毎年納入しているせいか、出席日数についてとやっかういうことはなかった。それをいいことに、テツヤはよく休むようになった。 今日も今日とて、相手の男の家に転がり込んで、昼間からシーツの上で男と一緒に裸で寝ていた。 「……ケータイ、鳴ってねぇ?」 テツヤが今日寝ていた男は、知り合いの知り合いの男だった。噂で男好きと聞いたから一度寝てみたが、どうも男慣れはしていなかった。久しぶりに不快に感じる性行為を終えたあと、互いに黙りこむように気まずげにベッドの上で寝転がっていたら、男がふとしたように気付いてそう言った。 「携帯…。あなたのじゃなくてですか」 起き上がって聞いてみると、男は首を横に振って否定した。テツヤも耳を澄ますと、それはどうやら自分の鞄から聞こえる音らしかった。なかなか鳴りやまない着信に、ブザー音が鳴り響く。 面倒くさげにベッドから抜け出して、テツヤは電話に出た。ナンバーは屋敷のものだった。きっと執事かメイドかが、口やかましく帰ってこいと詰ってくるに違いない。 「なんですか。帰れというなら帰りますよ―――」 「テツヤ様! なんでもっとはやく出てくださらないんですか!」 キーンと耳に甲高いメイドの声が響いて、テツヤは顔をしかめた。男がうるせえ、とちいさくつぶやいてシーツにくるまったのが見えた。それをちらりと視界におさめて、テツヤは溜息をついた。 「いったい何ですか?そんなに急いで……」 メイドの必死なようすにさすがのテツヤも不審になると、電話越しに屋敷内がバタバタと騒いでいるようすが聞こえてきた。病院を、救急車を、医者を、と叫びながら人のせわしい足音がする。 「旦那様が…!! 倒れられて…ッ……! お願いです。テツヤ様っ…はやく、はやく帰ってきてください!」 慌てて病院に向かうと、父はいろんな管をつけられて、ようやく呼吸をしているというようすだった。ガラス越しに見る父の姿は、以前よりも痩せていた上に顔色も悪くなっていて、テツヤは茫然とその姿を見ていた。 「父さん…………」 ぽつりとつぶやくと、別室からはいってきた医師がこちらへ向かってきた。 「ひじょうに厳しい状態です。いまはなんとかおさえていますが、明日、明後日……もつかどうかは………」 言いにくいとばかりに沈痛な面持ちで告げる医師に、テツヤは目を見張った。まさか、あの父が亡くなると言いたいのだろうか。この医師は。そんな、非現実的なこと、どう信じろというのか。 なにも医師に言えないまま突っ立っていると、ガラス越しに機械が不快な警報音を発した。0、そんな数字がちらりと見えて、え、と思うと同時に目の前の医師が慌てて部屋に飛び込む。看護師を呼んで、医師がガラス越しに延命治療を父に施そうとしている。 医師たちの切羽詰まった表情に、テツヤは耐えきれずその場所から飛び出した。見ていられなかった。 病院の待合室には、メイドがひとりと、執事がひとり。ふたりとも沈痛な面持ちで座っていて、昼間なのにその待合室はどんよりと暗く、テツヤの足音にメイドが顔をあげた。 「テツヤ様っ……。旦那様は…………」 メイドの苦しげな声に、テツヤは真っ青な顔をして首を横に振った。そのとたん、メイドは泣きだし、苦しげに嗚咽をもらしながら椅子に座りこんで俯いた。 どうしてこんなことに、とか旦那様、とかいろいろな言葉が耳に入ってきて、テツヤはそのようすを茫然と眺めることしかできなかった。 やがて、先程の医師がやってきて、父が死んだという旨を告げてきた。そうですか、その短い言葉しか紡げなかったのは、自分が薄情者だからなのだろうか、と思った。 - - - - - - - - - - PIXIVより再録 赤黒になるまでの準備段階です。 |