君の好きなもの

ちらりと見かけた懐かしい顔に、赤司は足を止めてその人物の後ろ姿をじっと見つめた。変わらない鋭いまなざしは、昔を思い出させて、赤司の胸の内にすこしばかりの燻りを生じさせる。
けれど、彼は気付かない。
赤司がじっと見つめていることにも気付かずに、人の流れと同じ速度で赤司の前から去っていく。

「…………………」
どれくらい見つめていたのだろうか。
いつの間にか、とっくに彼の姿は見えなくなっていて、赤司はやっとそこから動いた。
自宅の近くなのだから、彼を見かけてもおかしいことはない。中学は、自宅からさほど遠くないところにある。だから、見かけたとしても、それは当然のことであろう。

やがて、自宅に辿りついて、赤司はインターホンを押した。
慌てた声の使用人の声が漏れ聞こえて、赤司は苦笑した。

「ただいま帰りました」

***

茹だるような暑さに、赤司は顔をしかめて汗を拭う。
額から頬に流れ落ちる汗に、すでに湿りきったタオルはあまり意味がない。ぼんやりとした頭ですぐ横に置いてあるスポーツドリンクを取ろうとして、ぺしりと頬に触れる。

「すみません」
虹村から受け取って、赤司はそれを口に含んだ。
目の前のコート内では、最近、1軍に入ったばかりの黒子が青峰たちと試合をしている。もうだいぶ慣れてきたように思える黒子の動きを目で追いながら、黒子を試合にはじめて出したときの焦りを思い出して苦い思いを抱く。

「黒子は安定してきたな。……まァ、ここまで化けるとはな」
「はは。そうですね……意外でしょう? 俺も偶然彼を見つけたんですけどね」

2013/04/25 19:20



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