首輪7

それからどんなことを言って部屋に戻ったのか、征十郎は覚えていなかった。ただ悲しくて、やっぱりテツヤが一緒にいてくれることはないんだと再認識して、あの場にいられない気持ちになったことは覚えていた。
じとりと誰もいない空間を睨みつけながら、征十郎はベッドに伏した。ベッドの柔らかさが、いまは妙に恋しかった。


朝、起きてから食事をしていると、またいなくなってしまっていただろうと踏んでいたテツヤが現れた。いつもなら先にいることが多い上に、なんとなく服装に違和感を感じていると、じっと見つめてくる征十郎に視線を移したテツヤが口を開いた。

「今週の土日に部活動などの予定はありますか?」
思わぬことを聞かれて、征十郎は驚きつつも答えた。
「いえ…ありません」
「では、そのまま予定は入れないでください。今週末はパーティを開きますので」

ごくん、と生唾を飲み込んで、征十郎はなんとなくわかっていたが問う。
「…何の、でしょう?」
「君のお披露目…とでも言うべきでしょうか。僕が黒子家の家督を君に譲ることはもう多くの方が知っていますが、正式に僕から公言することでいらぬ横槍をなくすことが目的です。もちろん君にも挨拶をしてもらいます」

多くの知らない人間の前でそういうパフォーマンスのようなものをやることに、征十郎は抵抗はなかった。こなせることであったし、出来ないという意味での不安はまったくないとも言っていい。…ただ、ひとつ不安があるとするなら、そうすることでいよいよテツヤが本当にいなくなってしまうのだということに真実味が増すからだ。
そのことに対しての躊躇いに気付いているのか、テツヤは有無を言わせまいとばかりのようすだ。
昨日の告白も、キスも忘れてしまっているのだろうかと、征十郎はちらりと思った。


テツヤが今週末を開けておけと言ったのを皮切りに、瞬く間にその準備がテツヤの手によりされていった。週末の親類を呼んでこの屋敷で催したパーティでさえ一部でしかなく、征十郎はテツヤにより色々なところへと駆り出されていった。
その忙しさと以前のように隙のない姿となったテツヤを前に、征十郎はなかなか話を切り出せずにいた。それでも学校もあり、部活もあり、そしてまた親類との顔合わせなどもあり征十郎はテツヤに対してやきもきしつつも日々を過ごしていた。

そして、いつの間にかテツヤが言った来月という期限が差し迫っていたのだった。

2013/12/04 19:02



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