首輪6

そのテツヤの表情があまりにも悲壮感漂うものだから、征十郎は怒りの感情がわくよりも、この目の前の青年を哀れに思えてしまっていた。その悲しみの色を溜めた瞳に見つめられると、抱きしめたくなってしまった。
その本能に逆らうことなく、征十郎はテツヤの背中に手を伸ばして自分の方へと引き寄せた。テツヤも抵抗なくされるがままである。

「……兄さんは酷い。けど、そうでなければ…僕は一生兄さんと会うことはなかった。はじめの理由はどんなものであれ、僕にとっては……兄さんと会えたことが大切だ」
「征十郎くん」
耳元で、テツヤの声がする。
征十郎は相手の体温を感じながら、その温もりを再度確かめるように抱きしめなおして、身体をゆっくりと離した。

「僕は、兄さんと一緒にいたい」

そして今度は目を逸らさずに真剣にテツヤを見つめた。

「それでも兄さんは、僕を養子縁組させてしまうんですか?」
「……………………」
テツヤは無言になった。苦しそうに顔をしかめて、それから困ったように眉根を下げた。

「します。その決定が覆ることはありません」
「……なぜ?」
わずかに動揺した征十郎は、問う。
「君がそう言ってくれるのはとても嬉しいです。僕も君と一緒にいたい気持ちは一緒です」
話すテツヤの表情は穏やかで、けれど確固たる揺るがぬ決意が見え隠れしていて、征十郎はきっと何を言っても同じなのかなとちらと思った。
その征十郎の思い通りに、テツヤは続けた。

「生々しい話になりますが……僕は女性と性行為をしても子を生すことが出来ない身体なのです。そのことも含めて、君がこの家を継ぐことが正しい」

はっとなって、征十郎はテツヤを凝視した。信じられないとばかりに見つめて、怒ったような表情を浮かべた。

「僕に、黒子家を継いで…誰か見知らぬ女性と結婚をして子を生せと言うのですか……?」
テツヤは何も言わなかった。けれどその無言こそが肯定のような気がして、征十郎は動揺した。やっと気持ちが伝わったと思ったら、またどうしてこの兄はこういうことを言い出すのだろう。

「一緒に、いたいというのは嘘じゃないんですよね…?」
必死な目で征十郎が見つめると、テツヤはゆっくりとだが頷いた。

「すみません。これが僕の答えになります」


2013/12/03 22:46



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