首輪5

それを微笑ましく眺めて、テツヤはソファへと誘う。隣りに征十郎を座らせて、テツヤは一度立った。座ったばかりだがすぐに立ち上がろうとする様子を見せた征十郎に、テツヤは座ってなさいと言った。
「すぐ戻ってきますから」
「え? あ、はい……」

そう言ったまま部屋を出て数分、テツヤが普段メイドが使っているトレイを持ってやってきた。そのトレイの上にはマグカップが二つ載っている。もしかして自分で入れたのだろうか。
それをソファの前にあるテーブルに置いて、ひとつを征十郎に渡した。ふんわりと薫るミルクの匂いに、征十郎はマグカップの中身を見た。

「……………………」
思わず無言になってマグカップの中身を凝視する征十郎に、テツヤは苦笑した。
「ホットミルクです。玄関ホールは冷えてましたから」

その言葉で征十郎はようやく自分の身体が酷く冷たくなっていたことに気付いた。テツヤに比べて薄着のせいもあり、征十郎はぶるりと身体を寒さで震わしてから、ありがたくそのホットミルクを口に含んだ。

「…甘い」
「砂糖は多めにいれましたから」
テツヤも同様にホットミルクを口にして、甘いのが好きなのか満足そうにそれを飲んでいる。
しばらくどちらも口を開くことはなく、甘いミルクの匂いが部屋に香ることしかなかった。
どうしよう、自分から話すべきか?と思いながら征十郎がそわそわとしていると、テツヤが口を開いた。

「……僕は昔から何をしても平凡で、影が薄くて目立たなくて………父にはよく幻滅されたものです」
なんと返答すればわからなく、征十郎はテツヤを見つめ返すしかなかった。
テツヤも何か言葉を求めているわけではなく、征十郎は聞き役に徹すれば良いようだった。

「父が僕の代わりに君を引き取ろうとしたのも、僕が凡庸だったからです。…父は、君と直接会うことはなく亡くなりましたが」
冷たい指先を征十郎の頬に伸ばし、優しく撫でてテツヤは微笑んだ。

「僕は君の賢さに、完敗だった……。比べるのさえおこがましいと思いました」
あまりにも手放しに誉めるものだから、征十郎は恥ずかしくなって視線を逸らした。

「こっちを見て。征十郎くん」
けれど、背いた顔をテツヤの手により向かされ、征十郎は赤みの差す頬をテツヤに向けた。
真剣な眼差しでテツヤはじっと見る。

「僕は君を引き取って、君を黒子家を継げる存在に育てようと躍起だったんです。それが僕に残されたやるべきことだとわかっていたから……」
一呼吸を置いて、テツヤは続ける。
「けれど、僕は君のことを兄弟とか、家族の意味ではなく好きになってしまったから……僕は君から離れようと思いました。それに、冷たくすればきっと征十郎くんも僕のことを嫌って……いくら僕が好きでもどうしようもなくなるんじゃないかって…………」

酷い理由でしょう?とテツヤが言った。

2013/11/27 19:07



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