首輪3

テツヤがその人々と屋敷から追い出して、姿が見えなくなった後、たまらず征十郎は飛び出した。「兄さん!」と大きな声で声をかければ、テツヤは驚いた様子もなく振り返ってじっと征十郎を見つめた。
何を考えているのかわからないみなものような薄い水色の瞳に、征十郎はぐっと息をつめた。

「……養子縁組の、次は…それですか…………」
はは、と乾いた笑いをもらした征十郎に、テツヤは肩を竦めた。
「隠していたわけではありません。ただ、あまり言いふらすのもああやって厄介な方々が家に訪ねてくるのが好ましくないからです」
「……兄さんは、どうするんですか?」

征十郎はじんわりと目頭が熱くなるのを感じた。けれど、どうしてもテツヤの前では涙を見せたくなくて、頬に滑り落ちそうになる涙を溜めて、落ちないようにと堪えた。

「僕に家督を譲って、それで、どうするんですか? …兄さんは、もう黒子の家から離れるということですか……?」
「……最終的にはそうなります。僕が黒子の家に関わるときは、葬式の時くらいになるでしょう…」

君とも、会うことはありません。
その言葉に、征十郎は涙が頬に伝うのがわかった。酷いと思った。養子縁組を組ますだけではなく、家を捨ててその全てを自分に委ね、二度と会わないなどと言うのだ。
自分はこんなにも離れたくないと確かに思っているのに、何度もそれを打ち砕くような言葉を投げつける。

階段をゆっくりと踏みしめるように下りて、征十郎はテツヤの前に立ち塞がった。
涙をその白い頬に流す征十郎に、テツヤはわずかに躊躇する様子を見せた。

「せい、」言葉を言い切る前に、テツヤは征十郎から抱きしめられた。
ぎゅっと自分よりも大きくなった腕が背中にまわって、その存在を確かめるように抱きしめられる。濡れた頬が、テツヤの頬を掠める。

「お願いです……兄さん…。どうか、俺のそばにいて下さい。あなたと離れて暮らして
……ましてや二度と会わないだなんて信じられない。耐えられない!」
「征十郎くん…」
テツヤの困ったような、慌てたような声がする。
「義理でも、兄弟でも、どっちでも良かったんだ…。好きだった…ずっと昔から……」

抵抗しようとした腕を取られて、テツヤは口を塞がれた。
薄い冷たい唇が、テツヤの唇を塞いで優しく啄む。征十郎の泣き顔を、テツヤは目を見張って見つめていた。
そして、その赤い唇がゆっくりと自分から離れているのを見ていた。

茫然として、テツヤは呟いた。

「……君は、大馬鹿者です」
征十郎がその言葉にテツヤを見ると、テツヤは悲しそうに笑っていた。その表情が昔のテツヤの表情に酷似していて、征十郎は酷く錯覚した。

「君は全てを持ってる人なのに…僕みたいな出来損ないを繋ぎ止めて良いことなんて何もないのに……愚かしいという他ない」
テツヤは宙に放り出されている征十郎の手を握り、懐かしそうに目を細めた。

「僕の方がずっと君のことを…昔から、君が思うよりもずっと、愛していましたよ」

2013/11/23 22:31



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