花咲くを待つ喜びを



カーテンを通して柔らかい光が差し込む部屋で。俺はスズの頭を撫でている。目覚めたのはほんの少し前。瞼をこすろうとして腕に引っ付く彼女に気付いた。
本当なら朝から仲睦まじいことがしたいのだが、気持ちよく寝ているのを起こすのも可哀想で。あれこれ考えた結果、髪を撫でるにとどまっている。彼女が引っ付いている腕は動かすわけにはいかないので、なかなか無理な恰好をしていることは分かっているが気にしない。
(髪、柔らかいなァ)
 ふんわりと香るシャンプーの匂いに悶絶しそうになるのを抑える。
(同じの使ったらこうなるのか?)
 くるくるとした自分の髪を触ると彼女のそれよりずっと頑固で固い。うーん、とうなっていると腕の中のスズが身じろぐのを感じた。
「?」
 ただの寝返りかもしれないのでじっと観察する。
「く、ああ」
 目を閉じたまま、大きな口をあけて彼女はあくびをした。それから細く目を開けて、瞬かせて、また閉じる。
「・・・」
 黙ってそれを眺めている俺には気づいていないようで、猫のように足をぐいと伸ばしてからなぜか丸くなり毛布の中に頭からすっぽりと埋まった。これじゃ撫でられない。
毛布の端をゆっくり捲って、丸くなった彼女を追う。毛布のなかでまたあくびをしているのがうかがえた。
「目、覚めた?」
 俺の声を聞いて、ぴくりと体がこわばるのが分かった。けれどもすぐにそれは解けて、何事もなかったかのように布団に横たわる。
「そのまま寝とく?」
「...ううん」
 ふわああ、といままでで一番大きいあくびをしてからごろりと俺の懐に潜り込んだ。
「起きるんじゃなかったの?」
「起きてますよ」
 どっち、と笑いながら指で髪を梳いてやると少し照れて顔を胸に押し付けてきた。
「今日はえらく甘えてくるなァ」
 いつもはこうやって引っ付くのは俺の役なのに。いまにもごろごろと鳴き出すんじゃなかろうかと思える猫のようなスズの様に、にまりと頬が緩む。
(もしかして誘ってる?)
 むくりと助平心が鎌首をもたげる。何しろ彼女は何も身にまとっていないのだ。男としては仕方がない。生理現象、生理現象。
 俺が悶々とした気持ちを頭の中であしらっていると毛布の中から白い腕が出ているのがみえた。どうやら胸に引っ付いていたスズは向きを変えたらしい。伸びた白い腕はぽんぽんとベッドの縁を叩いた後、よろよろとベッド下へ伸びた。腕に引っ張られたように毛布からすぽんとスズの頭がでて「あった」という声が聞こえる。
スズは頭を上にあげていき、かぶっていた毛布はスルスル彼女のと背中を伝いながらぽすんとベッドに着地する。差し込む陽が彼女の背中を照らして絵のような美しい光景が出来上がった。
(...スズちゃん、それ俺のシャツね)
 袖を通してから自分のシャツではないと気付いたのか彼女の動作が止まった。しかし暫くして諦めたのかそのまま反対の腕も通し、ぽちぽちとボタンを留めていく。
ぶかぶかとしたシャツを身にまとったスズは立ち上がるとトコトコと部屋にある小さいキッチンへ歩いていく。裾は膝の上まであるのでただのワンピースを着ているみたいだ。

 キッチンへ行ったスズはしばらくしてトレイにカップを2つ載せて戻ってきた。
「白桃の烏龍茶です。季節のものなのでとてもいい香りがしますよ」
「うん、すごくいい香り」
 スズからカップを一つ受け取って、お茶を口に含んだ。

甘い桃の香りと、奥ゆかしくさっぱりとした茶葉の香りが体に染み込むようだった。


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mokuji

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