羊雲は静かに揺れる



「サカズキ、お前のソレには俺はついていかねェよ」
「わしもお前の下ではやっていけん」

 ずっと前から分かっていた。3人で海兵になった時からずっと生じていた亀裂。決して交わることのない個々の信念。彼らが力のない一海兵にとどまっていたのなら、こんな未来はなかったのかもしれない。けれど悪魔の実を口にした時に「強くなる」と誓ったのだ。自分の信じる道のために。
「サクラはどうしたんじゃ」
「ボルサリーノに預けたよ。ほかの奴じゃあの子に敵わないから」
 彼女は自覚していないが、傷を思いのまま移動できるキズキズの実の能力は中将クラスでも抑えつけることのできる能力である。そんな彼女を従わせることができるのはクザンか、それ同等の力のあるボルサリーノ、そして目の前のサカズキくらいだ。
「貴様にしては賢明じゃのう」
 サカズキはこの地にスズがいないとわかって少しホッとした。


 初めからサカズキの目には悪を駆逐することしか映っていなかった。クザンも彼と同じくらいに悪党を憎んでいるはずだったが海軍に入ってからサカズキの悪を孕む憎しみのその深さが自分のものと到底同じ位置にはないことを知る。
 そしてオハラのバスターコールの時、サカズキは避難する船を躊躇なく沈めた。これが決定打だ。もう二度と交わることのない道の上を歩いてると確信した。
出会ってからどれくらいの季節が流れたか。
(...スズちゃん大丈夫かねェ)
 気を紛らわすために遠く離した彼女を思う。

世界は変わる。白ひげの死が口火であり、いまのマリンフォードがその入り口だ。その先頭を歩くのはサカズキか自分か。
(3人で歩けたらどんなによかったか)
海軍の最高戦力として恐れられているがいつも3人でバカをやってきた。2度とその関係には戻れないと見せつけてくる残酷な現実。
『クザンさん』
そんな真っ暗な中で自分の袖を引っ張る声。
(そうだった)
スズがいた。
自分の信念に寄り添ってくれる人間がひとりいた。目を閉じてもはっきりとした輪郭で思い浮かぶ彼女の顔にひどく安堵する。


(たぶん、俺は負けるだろうなァ)
 あの戦争でサカズキは火拳のエースに能力の上下関係を説いたと聞く。クザンの能力は冷やすこと。サカズキに攻められれば防戦一方になることは目に見えて明らかだ。
自分にサカズキの狂気を冷え固めることができるだろうか。憎しみに染まる前のただの岩同然に戻すことかできるだろうか。そうして残ったサカズキは自分の友人のサカズキだろうか。
(死ぬかもなァ)

あーこわいこわい。

「手加減はせん」
「...俺も負ける気はない」
最後に二人して状況に合わない笑い顔を浮かべる。

(負けたら、俺は海軍を去ろう)

サカズキのマグマが眼前に迫った。


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mokuji

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