代打、わたし



「お待たせしました」
祈りを託すには小さい背中が、あいつと俺の前にわりこんだ。
「クザンさんはそこで止血を」
手に持った袋を押し付けると、スズは俺に背を向けた。
「サカズキ中将、申し訳ありません」

わたし、

青雉・クザンの部下なもので。


燃える岩の熱風か、凍てつく空気の対流か。
正義と書かれたコートがまるで船の帆のように膨らんでははためいて。そのたびにちらつく彼女の背中には鈍い銀色をした細身のライフルが一丁、コートの裏には骨のように細いナイフから子供の手首ほどあるナイフまで、様々な形な刃物が刺さっていた。
太ももに巻いたベルトには申し訳程度の薬莢を入れるポケットと、コートについていた細いナイフが10本ほど。

「ここからは私が代わります」
手始めにコートから両手に1本ずつ、ナイフを掴んだ。
「クザンさんの考えには概ね賛同しているので、私も負けるわけにはいかないのです。だかあら痛めつければ諦めるなんて思わないでください。
殺す気で来てください、クザンさんにしたように」
ナイフなんかでサカズキに、と彼女を知らない時の俺なら言っただろう。
いま、すでに彼女の能力は幾度となく記憶に塗り重ねられている。嫌というほどにたっぷりと。
サカズキだって、それは同じ。
2本のナイフはあっさりと彼女の太ももに刺さり、同じ傷をサカズキに負わせた。次に瞬きをする僅かな時間で、彼女の太ももに刺さっていたナイフは抜け、目を開いた時には2本のナイフは地面へと落下するところであった。
「いっ・・・て・・・」
遅れて自分の脚が痛いことに気が付く。
(遠慮ないねェ・・・)
彼女の傷の範囲転写は人を選べない。彼女が空間に傷を放つと一定距離の人間は等しくおなじ傷を負う。
「・・・」
サカズキはスズを睨みつけたまま黙っていた。しかし、轟々と唸る身体のマグマから、サカズキもこの場を引く気がないことがわかった。
スーツの赤い布地に黒く血が滲んでいた。


「・・・氷とマグマなんて、あまりにもアンフェアだと思いませんか」
初めに飛びついたのはスズのほうで、一気に間合いを詰めてサカズキの手を自分のほうへ引くと、それにつながる腕へ鼻を寄せ、大きく口を開いて、噛みついた。超高温で煮えるマグマが彼女の唇と舌を焼き頬を焦がす。
「バカタレェ・・・!!」
サカズキにとって不意打ちだったらしく、粗暴にスズを振り払おうと腕を振り上げた。が、その動きに巻き込まれることなくスズはサカズキから飛び退いた。
勢いでとん、とん、と地面を跳ねながら着地し、手で口を拭った。火傷は一切なく、いつも通りの彼女の口。
それと対照的に焼けただれたサカズキの口。
焼けて縮んだ皮に引っ付いて肉が一緒に焦げている。
「チッ・・・」
サカズキは眉を寄せた。舌打ちをして染みる自分の舌に腹を立てているように見えた。
 


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mokuji

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