AM 7:00



(…新しい朝ってなに?)
外から聞こえてくる朝礼の音楽に耳をついばまれ、私はタオルケットの下から這いだした。
まだ早朝と言っていい時間なのに外はいやにまぶしい。まったく夏というものはすべてが騒がしくて困る。
寝ぼける頭を動かすために私は頭を掻いた。指に不意に毛束が触れる。耳の後ろのほうの髪が長時間ベッドに押さえつけられて変な方向にくにゃりと曲がっていた。
「…もう起きるのか」
気だるげな声がすぐ後ろから聞こえた。声だけなら「今起きた」というふうだけれど、眠りの浅い彼の事だ。私よりずっと早く起きて今の今まで惰眠をむさぼっていたに違いない。
「もうすぐうんと気温が高くなりますから」
私は鼻ににじむ寝汗を手でぬぐう。
「だいじょーぶ」
のしり、と背中に物理的重量感。
後ろからギュウと抱きついてきた大男は氷嚢のようにひんやりと冷たかった。
「なんなら部屋を丸ごと氷づけに」「後始末が大変です」
私は笑いながら肩に乗った大きな腕を退けた。
涼しいのは結構だけれど、昼間には部屋が水浸しになってしまうのは勘弁願いたい。
「クザンさん、おはようございます」
「おはよう、スズ」
私、クザンさんの順にベッドから降り2人そろってリビングへと移動した。

歯を磨いて、顔を洗って、軽く身だしなみを整えて。
私は壁にかけてあるエプロンをとった。
「朝ご飯、パンでいいですか?」
「ああ。」
「イチゴジャム?」
「たっぷりと。」
はーい、と返事するかわりにひらひらと手をふって私は台所に向かった。
台所にはいつもの食パンともらいもののクロワッサン。
(そして冷蔵庫にはハムとチーズ。)
海兵である私とクザンさんは見かけによらずとてもよく食べる。とくに朝は一日の始まりなのでとても大事。私は食パンならば厚めの6枚切りを2枚ぺろりと平らげる。クザンさんはさらにもう1枚。
(せっかく頂いたのだし、クロワッサンも食べよう。)
私は食パン2枚をトースターにつっこみ、クロワッサンを2つに切り分けた。
ナイフがクロワッサンの層を裂くたびにバターの良い香り。
(3つ作ってクザンさんに2つ。)
チーズカッターでブロックから薄くチーズを剥ぎ、2つに分かれたクロワッサンの片方に手際よく乗せていく。
次にハムを切り出し、同じように乗せる。最後に余ったほうのクロワッサンでふたをして完成。
(簡単だけど、これ好きなのよね。)
ちらり、トースターを見るとまだほんのすこしかかりそう。
次に冷蔵庫の野菜室からレタスを出し、葉を数枚剥いで軽く水にさらした。
そこでトースターがチン、と音を立ててパンの焼き上がりを知らせる。
食パンはとりあえずそのまま置いておこう。私はレタスを食べやすい大きさにちぎりお皿に盛りつけた。レタスは包丁で切ってはだめなのだ
ええと、他になにか付け合わせる?そういえばさっき、野菜室に…あ、そうだ。
(イチゴをそろそろ食べてしまわないと)
サラダはレタスだけにして、イチゴをどうするか考える。
そのまま出すのもいいけれど、ちょっと鮮度が惜しい。。
「クザンさーん。このイチゴと他好きなもの入れてジュースでも作っちゃってくれませんか。」
「まかせて」
台所にやってきたクザンさんに私はイチゴをパックごと渡した。
「野菜室にまだ果物ありますし、牛乳でもヨーグルトでも好きなの使ってください。」
クザンさんが冷蔵庫を漁る音を聞きながら、私はジャムの瓶のふたをひねった。甘いイチゴの香りが鼻をかすめる。
(あ、イチゴかぶっちゃったな。)
まあいいか。スプーンにジャムをたっぷりとって、それをパンに塗った。
テーブルの上で、クザンさんがミキサーを回す音が聞こえた。


テーブルにはイチゴジャムがたっぷり塗られた食パン、ハムとチーズがはさまったクロワッサンにサラダ。
「さて、お待たせしました。いただきまーす!」
「いただきまーす。」
あのイチゴはご丁寧に冷凍イチゴへと変身し、ジュースは冷たくて美味しいスムージーへと変革していた。いったいいつの間に。

(クザンさん1人いれば夏は安心だなあ。)
ごくん、と飲み込んだスムージーはイチゴの他にほんのりバナナの味がした。


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mokuji

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