thank you !



冷たい息を、あなたの息を
ぐっ、っと吸い込む。
むせるのなんて勿体ない。

すべてが貴方で、水蒸気の分子ひとつ逃してたまるものか。



窓からぼんやり入る月明かりが、彼の肌を闇から浮き上がらせていた。
人の寝室に入ってくるなんて、なんて不届き者だろう。

眠い目をこすりながら、私はその愛しい不届き者の姿を見た。

「おかえりなさい」
「つまんないなあ」

「もう少し眠っていたら、キスして起こしてあげたのに」

久しぶりに会ったと思えば、開口一番そんなことを言う。
とんだ恋人じゃないか。



「待ってたの」

「ずっと一人で?」

「ええ」

「・・・おいで」


この人は何を言っているのだろう。
ここはどしっと中央で胡坐をかいて手招きしている貴方のベッドでしたか?


シーツの間からゆっくり這い出るとクザンのほうへすり寄る。

ああ、彼の匂いだ。


「今回はまた、えらく遅かったですね」

「まだ本部にも戻ってないんだから」

「・・・それならすぐ戻ってくださいませ」

「つれないなあ」

彼は拗ねた子供のようなマネをする。
自分より一回り以上年上の男のそんなそぶりを可愛いと思うだなんて、私はきっとどうかしている。

「待ってたんじゃないの?」

「待ってました。」



そうずっと待ってた。
あなたが広い海に連れて行かれたんじゃないかと思うくらいの時間を私は過ごした。

その間、誰とも関わろうと思わなかったから事実上の休業をしていた。

「早く戻って・・・そして明日の朝には迎えにきて?」

迎えに来て、眩しいくらいの日の下を一緒に歩いて。



「・・・」


私から離れると、クザンはすぐにベッドを下りた。



「明日は外で朝食をとろうか」

「はい」


私はその後、あくびをしてシーツの海に潜り直した。




‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
「海軍本部の島」「色町」
「柔らかい髪」「背の低い私」
「たくさんの部屋」「ひとつの部屋」
「階段」「踏めば軋む床」
「夜風が冷たい月夜」「シーツの温かさ」
「明日からは私はひとりのために」
「温かいコーヒーと香ばしいフルーツサンドをお腹いっぱい」
「日向」


*prev  next#
[ 57/62 ]
mokuji

top

「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -