署長samPle
その日は朝起きると、どうにも身体が重かった。
(む・・・)
目覚めた頭を起こすにも鉛をつめた袋を持ち上げるようだ。
「よいしょ、とと、と」
しかも、持ち上げたら持ち上げたで安定しない。
(・・・血が足りない?)
重い身体とふらふらする意識の原因をぼんやり探してみる。
与えられる食事の量と抜かれる血量。 スズの血に塗れた天秤は「正常」のほうに戻ることはないくらい、強く傾いていた。
(ふらっ、ふらっ・・・ううん、ふわふわ?)
ふわ、ふわ、と歌うように呟いた。 何回かそれを続けたが、すぐに飽きてしまって、また口は閉じる。
(朝・・・ごはん、まだぁ?)
扉があるであろうほうへ目を向ける。
スズのいる暗い牢には全く日光が射し込まない。 稀に彼女へ届く光は、マゼランや看守の持ったランタンのものだけだ。
その暗い中、はじめは時間の感覚がつかめずえらく苦しんだが、今では正確な体内時計を手に入れた。
その体内時計が朝食が近い、と知らせている。
そわそわと騒ぎ出したがる胸。 変わらずに静かな部屋。
じっと待つと、なぜこんなにも時間はゆっくり流れるのか。
(まだ来ない!)
スズは浮き足立つ自分にイライラを積もらせながら、ただひたすら扉の方をみていた。
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