署長サンプル 1



 
(あの女の人・・・だあれ?)


ある日だった。
いつも一人でスズのもとへ来るマゼラン。
しかし今日は連れに女が一人。
彼女は長い綺麗な金の髪で右目を隠していたが、もう片方の目にあるサングラスとボディラインの良さがはっきりとわかる艶めかしい服装で、彼女がここの看守であることは察知した。


「ふ・・・っ!!」

全身の毛を逆立てる猫のように、女に向かって威嚇。


(なんで、だれ、だれ、なにあれ!!)

スズの小さな頭の中で嫌な想像がぐるぐる回った。
同僚か、片思いの人か、恋人か、もしかして二人は夫婦なのか。

何にせよ、マゼランと顔を合わす機会が多いであろうその女は、スズが知らないマゼランをたくさん知っているはずだ。

(ずるい・・・)

「・・・だ、」

彼女は威嚇の体勢を崩し、ぎゅっと床で丸くなる。

「いやだぁ・・・」



「何が、だ」

「お腹でも痛いのでしょうか」

状況を全く理解できないマゼランと看守の女はそっとスズに近寄る。

いつもなら鬱陶しいほどに自分に甘えてくるスズ。
そのスズが顔を合わせようともしない。
拒絶するように一人小さくなっている。


「おい、」


「顔を上げろ」

マゼランが苛立ったような声音で言葉をなげかける。

(いやだ、やだ・・・、二人が並んでるのなんて見たくないよ、マゼラン署長)

マゼランの言葉を丸めた身体でガードしながら、なおも顔を向けようとしないスズ。
ぐずる子供のような彼女に、マゼランは呆れたようなため息をついた。

それから、普段の囚人を蔑む時の目で

「スズ・・・」

けれど熱っぽく彼女の名前を呼んだ。

(!!)

下を向いていたスズにはその熱っぽい声だけが届く。

耳がぼわっと熱くなって、スズは思わず顔をあげた。
すぐさまマゼランの名前が唇に乗って出る。

「マゼラッ・・・」

ビクッ

しかし、顔を上げた先の冷たい目に、名前は引っこみ心臓は跳ねた。
どうでもいいと、邪魔だと言いたげな絶対零度の瞳。

「俺をてこずらせるな、ガキが」

いつもと違う、昔よく聞いたような台詞。
身体の末端から小さく震えはじめる。

「・・・ごめん・・・なさい、マゼラン署長」

一度彼を捕えた目をふせ、ぎゅっと唇をかんだ。


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mokuji

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