署長Sample



暗い闇のなか、かつん、かつん、と耳に心地よく響く音。


「ごはん?」

闇の中から若い女の声。
足音とともに近づく灯りに照らされ、白い肢体がぼんやりと浮かび上がる。


「マゼラン署長」


女のぼっさりとした髪の間からルビーを思わせる目が足音のほうへ向けられた。


「ああ、」


足音の主はやわらかな声音で素っ気ない言葉を発する。


足音の主は、女の囚われている監獄・インペルダウンの最高責任者、マゼラン。
監獄署長マゼランといえば、このインペルダウンで知らないものはいない。
ドクドクの実によって処罰、もとい処刑された囚人は数しれず。
幾多のむごい断末魔を聞いてきた囚人たちにとって、マゼランとは恐怖の化身であった。




「マゼラン署長、マゼラン署長、」


女は両手をめいいっぱい前へとのばした。

しかし、前に進みたがる体を邪魔する鎖が、彼女の首と足につけられていた。

いままでも毎回そうやって鎖と引っ張り合いをしていたのであろう、首と足にはただれたように皮膚が剥げ、鬱血したのだろうか気味の悪い紫色の痣になっていた。


「そう急かすな。飯はちゃんと与える。」

事務的なセリフ。
しかし女はその言葉が冷たい無機質なものでないことをちゃんと知っている。

「マゼラン署長、」

女に近寄り膝を折ったマゼラン。
女は彼に、先ほど伸ばしていた腕を絡めた。



「っ、」


「どうした。怖い夢でもみたのか」


「うん、見た。見たよ。」


(署長がずたずたにされる夢)



悲しげに目をふせる彼女を労るように、マゼランはふるふると震える背中をゆっくり撫でた。


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mokuji

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