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にこりと微笑む顔も好きだし、 情事の時の困ったような顔も好きだ。
けれど、もっと・・・寝顔が好きだ。
この子の寝顔が大好きだ。
「えい」
人さし指をスズのほっぺたに当てる。
そう、突くのではなく当てる。 起こしたくなんてないから。
指から伝わってくるのは、この子の温かさと滑らかな肌の触感。
(陶器は、柔らかいとこんな手ざわりなのかね)
明りを灯していないこの部屋で、窓からベール状に差し込む月の光だけが手元を照らす。
その青白い光の中でみる彼女の肌は、まるで陶器だ。
壊れるのだろうか、冷たいのだろうか。触らずにはいられない。
壊れないように扱うのも大変なんだ、と彼女に言ったことがある。
『いっそ、いっそっ・・・壊して、ください。その手で・・』
そのとき恍惚した表情で、彼女に、スズにそう返された。 あの時は本当に、壊してしまうんじゃないだろうかというほど強く激しく抱いた。
(それでも、スズは耐えるから)
不安になるのだ。
どこまでが大丈夫なのか、どうすれば壊れてしまうのか。 その境目が実に不明瞭で、いつかあっさり越えていなくなってしまうんじゃないか。
だからだろうか。 すぐに壊れてしまう印象を受ける寝顔がひどく安心する。
頭のよこに腕を置いて、スズの額に鼻を寄せた。
(いい匂い)
自分の使うシャンプーと同じ匂いに、スズの匂いが混じっているのがたまらない。 この甘い匂いは己の支配欲を充分に満たしてくれる。
「ん、」
小さく寝息をして、スズがこっちに転がる。 その身体がすっぽりと懐に入ったので、背中に手をまわして抱きしめてやった。
(胸が薄・・・いや、身体が薄い)
息をして上下する胸とその裏の背中が近い。 決して胸が小さいということではない。人並みにはあると思う。
(そうじゃなくって・・・)
男とは別世界の生き物なんだと見せつけられた。
(ガープさんの胸囲にスズ何人詰め込めるんだろなァ)
そこまで大きくなくても、抱きしめているこの腕にはもう一人くらい入りそうだ。
ん?スズが2人・・・?
(なにそれパラダイス?)
もわん、と沸いた妄想は止まらない。
両手にスズ。さて、どちらからいじめたものか・・・。 むしろ、どちらから手籠めにしてやろうか。
ああそうだ。こんなのもいい。 一方だけを贔屓すると、残ったほうのスズが拗ねる。 そして耐えかねて言うのだ 「クザンさんは、私のものです!!」
白い頬を真っ赤に染めて、涙目になって。
(考えただけで楽しい・・・)
でもまァ、そんなことは幻想にすぎないのであって。
(この子ひとりで、いいかな)
返しきれないほどの優しさを、また癒しをくれるのだから、これ以上を望むのは贅沢すぎる。
それに一人しかいないスズを独占しているというのもいい。
(それに2人いて、片方を誰かに盗られちゃたまったもんじゃないな)
自分はこの腕の中にいるスズだけでいい。
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mokuji |