オータム5



「お待たせしました」
執務室では仕事中の服とは対照的な、にぎやかな柄のシャツを着た彼が待っていた。
「何か食べたいものはある?」
「魚介類が食べたいです。いかがですか?」
「魚いいねェ」
手に持っていたバッグをごく自然に回収され、戸締りをしようと持っていた鍵も持っていかれてしまった。自分の甘やかされっぷりに頬が熱くなる。


「本部に住めばいいのに」
ご飯を食べ終え、くつろいでいた時。彼がつぶやいた。
彼は執務室の隣の部屋で生活している。海兵には泊りがけの仕事も多いことから、一部の幹部には執務室に隣接してプライベートルームが用意されている。これは一般海兵の仮眠室や更衣室に相当するものであるが、彼・青雉のプライベートルームはすっかりと居住区に姿を変えているのだ。
「私にクザンさんのような生活を?」
朝起きて、寝て、24時間を本部で過ごすなんて私には気が詰まってリラックスできそうにない。そればかりか、いつでも帰れると思うと、仕事にも身が入りそうにない。
「朝、ぎりぎりまで寝てられる」
・・・それは少し、美味しい話。
「私は少将であっても、以前はガープさんのところの事務、今はあなたの秘書の扱いなので部屋はもらっていません。廊下に住んでもいいのならテントでも買いますが」
「何言ってんだ。住むつもりがあるなら、執務室まるまるスズちゃんにあげるよ」
廊下でテントはもちろん冗談である。しかし、そちらこそ何言ってるんですか、
「・・・どこで仕事するんですか」
「そうねェ・・・。もともとあってないようなものだから、この際廊下にでも執務室構えるか」
冗談に聞こえなかったので、私は背中に嫌な汗を流した。これから寒くなる廊下で仕事なんてできるわけがない。あなたは部屋にいなくとも、私はほとんどの時間をそこで過ごすのだ。
けれどこんな心配をせずとも、恐らく、初日でサカズキさんかセンゴクさんによって撤去命令が出るだろう。
「それが嫌なら、俺の部屋においで」
「そうなると、24時間一緒にいることになりますね」
「いい事じゃあないの」
「・・・贅沢ですね」
あなたも、私も。

ふと、帰り際に掛けられた言葉を思い出す。
彼が選んだのが私ではなかったら。私はきっと、夏を想って秋を生きていなかったろう。さびしくどこかでぐるぐる迷子になって、気付いたときには年の境を越えていただろう。
(あの女の人は、私だ。私で在り得た。)
心臓がざりざりと砂を流す。

「スズ?」
しゃべらなくなった私に、クザンは心配そうに声をかけた。
「大丈夫?」
「ええ・・・なんでもないです」
贅沢に胡坐をかかず、大事にその味をかみしめるべし。
そう自分に言い聞かせて、グラスの水を口に含んだ。

「クザンさん、夏は楽しかったですね」
「うん? そうだなァ、色々あったねェ」
「・・・秋も、どこか行きましょうね」
「喜んで」

達成感が足りなければ、うんと濃厚な充実感を。
暖色で満ちる秋であれ。
 


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mokuji

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