オータム4
日が落ちてだいぶ経ってから仕事を終えた。正義と書かれたコートを執務室の壁に掛け、髪をほどき、更衣室で私服へ着替える。 制服と比べてずいぶん柔らかい私服に袖を通したとき、私はやっと仕事が終わったんだと全身の緊張がほぐれた。ああ、今日もどこかのサボり屋の代わりによく働いた。鏡に映った私の頬はゆるゆると、口は弧を描く。 鼻先に楽しみがあれば、夏でなくともこんなに楽しい。
更衣室のドアノブをひねって外へで出た。肌寒くて気持ちがいい。 クザンの待つ執務室へ向かう途中、スラリと背の高い女性とすれ違った。 「お疲れ様です」「お疲れさまです」 (うちの執務室以外に、こんな時間まで働いているところもあるのだなあ。) そんなことを考えて前に向き直ると、後ろから小さな声で「羨ましい」と聞こえた。 「え?」 私は反射的に振り返った。女性は口を押えて目を丸くして、焦っているようだった。 「あ・・・、すみません」 女性は何度もすみません、と謝ってから「失礼します」と頭をさげて更衣室のあるほうへと走っていった。
(うーん・・・) 私は、沢山謝られてなんだか申し訳ない気持になった。
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mokuji |