オータム3
蒸すような暑さを忘れて、少し寂しい季節になろうとしている。 夏はどうして楽しかった思い出でいつも溢れているのだろうかと、不思議に思っていた。近頃、ふとした時に納得のいく持論に落ち着いた。 (夏は暑さから逃げることができなくて、いつでも身体に負担がかかる。そんな身体を連れているから何をしても達成感がある。だから楽しい。) 普段から脳は物事のいろいろをフィルターで濾して処理をしている。夏は特に、上手くいったり楽しかったことはうんと美化されて、失敗したりつまらなかったことは「暑くて身体がついてこなかった」と頭のどこかで片付けている。 それに比べて涼しくなってやる事は、「動きやすい時期」を前提にしているから無添加の結果が脳に残る。それは夏の後引く達成感には勝てず、自然と去る夏を想わずにはいられない。だからきっと、寂しくて寂しくて仕方がない。寂しい部分に誰かの存在を押し込めずにはいられない。
「スズ」 秋風が通る本部の廊下で、上司であり恋人でもある彼に呼び止められる。 「どうしました?」 振り返ると自然に頭に手をのせられて、優しく撫でられた。
「仕事終わったらご飯食べに行こうか」 「喜んで」
何やら重要な会議を終えたらしい彼と並び、私たちは執務室へ戻った。
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