Happy Halloween !
「ごめん、こんなのしかなかったわ」
部屋の主が持ってきたのは開封済みの大判な醤油煎餅だった。
「お煎餅・・・」
カボチャ頭は煎餅を受け取り、まじまじと眺めた。
「お煎餅・・・か。ふむ。」
「ダメ?」
「・・・美味しいお茶をいただけるかね?」
「イエス。ご命令通りに。」
部屋の主は良家の執事のように恭しく頭を下げると、お湯を沸かしに給湯室に入った。
「お煎餅の前に、チョコレートぉ」
ふんふん、と鼻歌を歌いながらカボチャ頭はキラキラの包み紙をくるり、とめくった。 甘く濃厚な香りが鼻をくすぐる。
口に入れれば、舌の上でベルベットのように滑らかな甘みが広がる。
「美味しい!」
貴方は2つ、3つと口に入れる。
「罪深い美味しさ・・・チョコレートって素敵」
「ごめんね、チョコレートなくって」
部屋の主が帰ってきた。
「お帰り」 「よいしょ。ただいま戻りましてございます」
部屋の主は急須でお茶を淹れ、カボチャ頭に差し出した。
「どうぞ」
「うむ、くるしゅうない!」
「・・・何に影響されたの?」
「? この間、ガープさんと見た映画です」
首を傾げて不思議そうに見つめてくるカボチャ頭を、部屋の主・クザンはそっと持ち上げた。
ふさ、
カボチャ頭の下から、金糸を紡いだような見事な髪が流れ落ちた。
ほんのりと赤く染まった頬を撫でると、彼女はクザンを見つめてきた。
「お煎餅たべてもいいですか?」
「・・・どうぞお好きに」
姫薔薇のような唇に、彼女の顔ほどもある煎餅が順々に吸い込まれていく。
嬉しそうにパリパリと煎餅を食べる貴方を、クザンはぼーっと眺めていた。
一枚食べて満足し、貴方はお茶をすすると一息ついた。
「甘いものばかりではやはり飽きてしまいますね」
「そう?」
「ん、」
貴方はクザンに近づくと彼の口にチョコレートを放り込んだ。
「あ、美味しい」
「美味しいですよね」
「でもすっごく甘い」
「そこが魅力的でもあるんですけどね。 んむっ」
ちゅ、と小さなリップ音を立ててからクザンは唇を離した。
「甘ったるい?」
「・・・お煎餅もう一枚いただきます」
「えー」
*prev next#
[ 59/62 ]
mokuji |