3
「ごちそうさま、ドフラミンゴ」
「美味かったか?」
「うん!」
スズはドフラミンゴの手にぎゅっと抱きつく。
その二人の姿に一人の女が気付く。
「あら、ドフラミンゴじゃないの。ふふ、可愛い子猫ね」
女は胸がざっくりとあいた服を着て、いかにも夜のお仕事、というような妖美な雰囲気を醸していた。
ドフラミンゴは女を無視して通り過ごそうとしたが、スズが女の方を見て立ち止まる。
「?」
「そうだ、お嬢ちゃん。いいものあげる。」
女はスズに一輪のアネモネを渡す。
「ありがとう」
「ふふ、ドフラミンゴにもよろしくね」
「うん!」
女は口元に頬笑みを浮かべながら、去っていく。
「ドフラミンゴ!今の女の人、お花くれたよ!」
「フフフッ、アネモネたぁ、くせえことしやがる。鬱陶しいからそのへん捨てとけ」
ぺっぺ、と手を払うとドフラミンゴは歩き出す。
「えー!可哀想だよー!」
スズは走り寄り、さっきのように手に抱きつく。
「フッフッ、アネモネの花言葉、おめぇ知ってるか?」
「ん?えっと『恋の苦しみ』?」
「フフ、上出来だ。」
ぐりぐりとスズの頭を撫でる。
「あいつはそのつもりでソレ渡したんだろうけど、実はそんな可愛い気のねぇ裏話ってのがあるんぜ。」
「教えてー?」
「どっかの国の有名な昔話なんだけどなァ。フフッ!」
ある国に金持ちの夫婦がいた。 その夫は家の財産とさらなる発展のため、親が古くから付き合いのある富豪の娘と結婚させられていた。
愛せない妻、その妻には専属の少女の給仕。
給仕のひたむきな仕事ぶりに、男は惹かれる。
ある晩、間違いは起こる。 男が給仕の少女を姦淫してしまう。
それを目撃した妻は怒り狂い、給仕の少女をアネモネの花に変えてしまう。
「なにそれちょっと怖い」
スズはドフラミンゴの話を聞いてゾクリと身震いした。
「まァ、結局男は花になった給仕を愛し続けたっつーオチだけどな」
「ふーん。奥さん可哀想だねー」
「フフフッ!俺にはうざったくて仕方ねぇけどな」
「でも給仕の人からしたらロマンチック!」
「なんだ、お前も花にされてぇってかフフフッ!!」
「そういうわけじゃないけど・・・一生想われてそばにいれるなんて素敵だよ?」
「フッフッ!安心しろ、お前は俺が一生飼ってやる」
「うん!」
アネモネの花を握りしめるスズの脇に手を入れると、ひょいと持ち上げ、ドフラミンゴは彼女に自分の首に腕を絡ませるよう促す。
「さっさと帰ろうぜ」
「はーい」
スズは返事をすると、ピンクのもこもこにめいいっぱい顔をうずめる。
そのスズに満足そうな笑みを浮かべて「フッフッフ!」と笑う。
先ほどよりも近い距離で、二人の会話は続く。
「ドフラミンゴって、花言葉とか知ってるんだね。なんか変」
「それぐらい知ってないと、女にはモテねぇんだぜ?フフッ」
「わ。なにそれ。地味に浮気宣言?」
ドフラミンゴの首にまわしていた腕をほどき、胸をぽこぽこと叩く。
「フッフッフッ」
「そうやってはぐらかすー。ドフラミンゴ嫌い!大好きだけどっ」
「はっきりしねぇなァ」
「大好き!」
「フフフ、あたりまえだ」
「ドフラミンゴはモテモテだからね!女の人が寄ってくるのは諦める。 でも、何度浮気しても愛してるのは?」
「お前だけだ、スズ」
「うん、知ってる!」
そして2人してニヤーっと笑いあった。
周りの人間は恐ろしいやら気味が悪いやらですこし離れたとこを歩く。 それも全く気にせず、そのままの雰囲気で2人はドフラミンゴの家まで帰った。
*prev next#
[ 50/62 ]
mokuji |