署長サンプル 3
「泣いてないお前は、それほど嫌いではない。」
だからいい加減泣きやめ。
マゼランは胸のポケットからハンカチを出すと、顔をぐじゅりと濡らしたスズに渡した。 ごめんだとか、嫌いだとか、そんなことを言われるよりもその優しさが私は一番辛いのに。 そのうち乾くはずだったのに、涙が後から後から流れてどうしようもなくて。濡れた頬のままスズは笑みを浮かべる。
(うそつきめ。)
優しい微笑みなんかではなく、ただ悪戯に。
(マゼラン署長、好きでもない人にこういうことできるくらい器用じゃないもん。そんなのとっくに知ってるんだからね)
貴方が絶対忘れられないように、頭に残る嫌な奴でいいから。
「マゼラン署長の泣きそうな顔、変だねえ」
にひひ
(この顔だけでも、貴方のそばにずっといられたらいい)
痩せこけた頬のせいですこし歪な笑顔は、涙がとても似合わなくて。 それでもスズは目を細くしてマゼランに笑いかけ続けた。
「煩い。生まれつきだ」
そう言うと、マゼランは右手で目を覆った。 涙は流れてないけれど、そうせずにはいられなかった。
(泣いてからでは遅いからな)
その日会うのはこれが最後で、翌日会えたのもほんの少し。 挨拶もほんの数回行き来する会話の中だけ。
けれど涙一つ流さず、スズは海軍本部へと移送された。
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