署長サンプル 2
「あの、署長・・・」
黙っていた看守の女がマゼランに声をかけた。
「・・・お前はもういい、下がっていろ。あとは俺一人でいい」
「はっ」
ただついてきただけでまだ何もしていない看守。 それでも彼女は何も言わず、扉から出ていった。
いつもと同じ、二人きりになった空間。 いつもと違うのは広がる静けさ。
スズは先ほどのまま、ぺたんと座り込んでいた。
「はぁ、」
見かねたマゼランは彼女を囲む檻の扉をあける。
マゼランが中に入れば、一気に檻の中は狭くなった。
「俺に構うのに飽きたか」
スズへ手を伸ばす。
「何が気に食わない」
「っ・・・」
触れると、びくんと拒絶するような動作。
ひどく悲しくなった。
あまりに胸がきりきりとするものだから、マゼランは持ってきた食事を床に置いて早く立ち去ろうと考えた。
「・・・お前が嫌になっても、俺は来るからな。 拒絶するならすればいい。本来、それがあるべき関係だ。」
(そうだ、今までが何かおかしかったんだ)
「まぁ、楽しかったがな」
最後にそう、小さく呟いた。 けれど、スズの耳はそれをしっかり捕まえた。
ゆっくりと立ち上がろうとするマゼランの袖が下へぐいと引っ張られる。
「だれ、」
「あの人・・・だれぇ」
赤い瞳から、ぶわっと涙が溢れだす。 そして涙に負けないくらい、スズは声を上げて泣き出した。
「さっきの、人、マゼラン署長の恋人・・・なの?」
嗚咽の合間から必死に絞りだした言葉は、マゼランの予想斜め上を通り過ぎた。
(・・・まさか、こいつ)
「・・・嫉妬してたのか、ドミノに」
「うん・・・? うん、」
疑問符が混じっていたものの、問えば簡単に返ってきた謎の答え。
はぁ・・・
マゼランのため息が響いた。
「迷惑な奴だ」
強めに、けれど怪我をしないようにスズの頭へ手を振り下ろす。
「いたい」
「ドミノは俺の部下だ。仕事のできるいい奴だが、それ以上の感情はない」
だから心配するな、と言った。
「本当?」
「俺がお前に嘘を言って何か得があるのか」
「わかんない・・・」
けど
「マゼラン署長、あの人よりスズを好きでいてくれる?」
まっすぐ瞳を追って問えばマゼランは一言「あぁ」と返事をした。
「愛してやらないこともない」
そう言って、マゼランはさっさと部屋から出て行った。
(マゼラン署長のうそつきめ・・・)
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