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あなたのそういう目、大嫌いです。
「はぁ・・・こういう輩は困るなァ」
びっしりと氷に覆われてオブジェと化した海賊の男。青く汚い髭は見る影もなく、ただ静止の世界に包まれて太陽の光を反射する。
バリバリという破壊音を響かせて、彼、クザンはそのオブジェを踏み壊していく。 凍らせた果物の断面を見ているようだ。 体の芯までシャーベットのようにした海賊は、みぞおちのあたりでポキンと綺麗に割れて日光のもとへ臓腑の断面をさらけ出していた。
私がその赤いシャーベットを眺めているのが気に食わないのか、視線の先にあった上半身をぐしゃりと踏みつけた。
ふんわりと照らす秋の太陽は、ゆっくりながらもしっかりとその破片を溶かすものだから、ばらばらになった破片が肉片に変わっていく。
あたりは惨殺現場のように血肉をばらまいた状態になった。
「すみません」
私は冷たい彼の後姿につぶやいた。
久しぶりのクザンと2人きりの任務だった。 ある島に海賊が入りびたり、すでに死人を出したというありふれた報告内容。 私が先に現地に入りクザンと合流し捕まえる。何度もやったことがあるような任務だ。
私はいつも通り、島の裏側で待機するクザンと別れ島の中心地、海賊のいる酒場に踏み込んだ。
海賊の誰かに目をつけられれば上々。その海賊から彼らの内部情報を得、タイミングを見計らってクザンと合流するだけだ。 腐っても鯛。腐っても海軍本部少将。自分の貞操を守る自信もそれに見合う力も持っている。 悪魔の実、キズキズの実を食べた私は他人に自分の傷を移すことが可能だ。それを利用して得た戦果は手足の指を足しても数えきれない。
だから、慢心していたのかもしれない。 私は潜入した酒場で海賊の一人にまんまと捕まった。 そいつが使ったのはただひとつの指輪だった。
「そこの綺麗な女。一人で飲むな。こっちにこい」 「・・・」
「綺麗な青い目じゃねえか。それに・・・柔らかい髪」 「ありがと」
お高くとまった娼婦のように口元に控えめな笑みを浮かべて、男を見つめる。
「酒をとれ、うまく注げたら遊んでやるよ」 「ふふ、じゃあわざと零しちゃおうかな」
私はじゃれつくように彼の足の間を縫って膝に座り、丸い氷だけが入ったグラスに琥珀色のアルコールを注いだ。
「っと、」 「まだいれる?」 「はっ、それでこぼされちゃ後が楽しくないだろ」
男は私の腰をなでながら、グラスを一気に飲み干した。
「美人のいれる酒は違うな。美味い酒の礼にいいものをやろう」 「?」
ごそごそとポケットを漁り、男は指輪を取り出した。私の左手に自分の左手を添えて、指輪を薬指へと通した。
(そこはあなたのための指じゃない・・・)
男の行動を不快に思いながらも、顔には嘘っぱちの喜びを浮かべた。
とたん、体から力が抜けた。
「!」
何が起こったのかわからなかった。わかった時には床に組み敷かれていた。
「なに、するの」 「金の髪に青の目の美人。ハッ、知らなきゃ今頃そうなってたのは俺かもな」 「・・・」
ちくちくする髭を私の首元にすりつけてきた。
「お前、アノ海兵だろう。」
左手で私の腕を上へまとめ、右手で腹のあたりをまさぐる。 アノ海兵とはなんなのか。 いつのまにか噂になっている? 腹部の不快感よりも今後の任務に支障がきたすのではと心配がつのる。
「海楼石入りの指輪だよ。いくら能力者でもこれには勝てねぇなあ。残念だったな」
『まあ、悪いようにはしないさ』
そう耳元で呟かれて吐き気から目を細めた。 ああ、男の下卑た顔のなんと気持ち悪いことか。
目を細め、いっそ閉じてしまおうかと思った矢先、鼻先に香る安酒の匂いが薄くなった。
「うわあああ」
男の声に目を大きく開くと、その背中越しに見知った男が立っていた。
「何やってんだ」
「クザンさん」
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mokuji |