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「・・・どう見積もっても命は助からない。けれど身体だけならその人のもとへ、綺麗なままで帰せます。どうしますか」
「・・・?」
「こら、またッ」
クザンの制止の声も気にせず、スズはそのまま男へ問いかける。
「魂の死んだあなたの身体は、その人を悲しみの奈落に突き落とすことでしょう。それでもいいですか」
「・・・かまわない、彼女に・・・俺は死んだとだけ、分かれ・・ば、」
損傷が激しい海兵は遺族に戻されることもなく、みんなまとめて葬られる。 なので愛する人の死を受け入れられぬ遺族が「まだ生きている」と病むことが多い。 男はそれを避けたいのだ。
どんなに悲しくてもそれを受け入れなければ、前に進めない。 自分の死で愛する人の歩みを止めてはいけない。
(・・・哀しいけれど、なんて優しい死に様)
スズは男に手を当てると、彼の怪我をすべて受け取った。
「スズ!!」
クザンが血相を変えて倒れ込むスズを抱きとめる。
「・・・う」
「何してんの、死んじゃったらどうすんの」
何も刺さっていないのに、背中からどくどくと血が溢れる。
「死なないです・・・死んでやるもんですか。だから、そのために・・・
私をあっちに投げてください」
息も絶え絶えの声音で、スズは敵船のほうを指さした。 甲板にはいくつか人影があった。
「この傷、捨ててきます」
だから投げてください。 傍にいるとあなたにも移ってしまうから。
「この馬鹿! こんな傷だらけなのに投げられるわけねェだろう」
「じゃあ他の人に頼みます。ボルサリーノさ「こらこら」
むぐぐ・・・
クザンはスズの口を手で押さえた。
「(仕方ないなァ・・・)あの船でいいんだな?」
「? はい」
「スズちゃん下げて"剃"で船まで行く。で、スズちゃん置いたらまたすぐ"剃"で俺は逃げるから。着いたら2秒待って捨ててきちゃいなさい。」
「! はい!」
「しっかり掴まってろよ」
クザンはスズを抱きあげるとフゥと一息つく。 そしてスズの腕が首にきつく絡んだのを確認して、次の瞬間には船の甲板へと足を着けていた。
end*
注釈→
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