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「こら、返しなさい」
自分の身体がふいに軽くなったような感覚がして、スズに傷を持って行かれたのだと気づく。
「貰ったもん勝ちです」
そう言って逃げ去ろうとするスズの前に、ぼろぼろになった海軍の兵士が飛んできた。
「!」
(これは、ひどい・・・)
撃ち抜かれた膝からはとめどない血。背中には3本の剣が刺さり、もう手遅れで助からないと分かる。
「あ、あ、あ」
それでも生きようとする本能の残酷さ。 血反吐を吐きながら、生きようと頭を振るう兵士。
見ていられなかった。
目を背けるのは海軍兵士として失礼だと分かってはいたが、スズは目をクザンのほうへやった。
「彼、もう助からないよ」
目のあったクザンは、忠告するように言う。
「わかってます」
「ホントに?自分が怪我引き受けたら助かるとか思ってない?」
「・・・ちょっとは。でも失った血は私にはどうすることもできません。彼は出血のショックで・・・おそらく、」
それ以上は言わず、スズは黙った。
クザンはスズがその兵士の傷を受け取ってしまうのではないかと思ったのだ。 かくいうスズはこの戦争の中で幾度か同じようなことをしている。 クザンが気にするのも仕方のないことだった。
「帰る場所も待つ家族もあっただろうに」
「戦争はいつも無情なものです。誰が何人死んだって気遣ってくれません」
海軍が白ひげ海賊団に応戦してから、いくつもの死体を目の当たりにしてきた。 どこを見渡しても赤い血に溢れていた。
「あとどれだけ倒せば終わるんですか。ねえ、クザンさん・・・」
「俺にもわかんないよ」
「処刑すべき罪人が死んで、白ひげも死んだ今、何をすれば?」
「・・・とりあえず、死なないで」
自分のために。俺のために。
「同じく私からクザンさんへ」
願わなくても大丈夫だけれど、愚かなお願いをスズは返した。
その時、背後から消え入りそうに聞こえてきた声。
「・・・ャ、・・・っ、すまん・・・愛してる、すまん」
(・・・っ!)
さきほど飛ばされてきた兵士からだった。 潰れた目から赤く染まった涙を流しながら、誰かの名前を呼んでいる。
「ごめんな・・ぁ・・・・」
男が謝るたびに、口からぽたぽたと血が流れた。
スズは彼のそばにしゃがみこんだ。
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mokuji |