「はあ・・・」
ドアをパタンと閉めた後、ドアの前でへなへなとスズはへたり込んだ。 その背後から、そっとクザンが声をかけた。
「お疲れ様」
「!! うおあう! クザンさん起きてたのですか」
「うん、別に寝てないし」
「そ、そうですか」
当然のごとくスズは飛び跳ねて驚き、クザンを見た。 その背後に、すっかり湯気が立たなくなったマグカップが見える。
(お茶・・・もったいない・・・)
「いいの?あんなので」
「はい、もとより大ごとにするようなものでもないですし」
「俺は納得いかない」
「納得してください!」
クザンは子供のように頬を膨らませた。
「あーもう」
むぎゅう
「うわああ」
対面した状態でクザンに抱きつかれる。 肩から移ったダージリンの香りがする。
「・・・」
「あれ?逃げない」
「・・・慣れって恐いですね」
「慣れたのか、つまんねェなァ」
(どういうことですか)
ぐいぐいとクザンの頭を押して彼の腕から抜け出して、スズは身なりをただした。 皺になった背中のところは手では直りそうにない。
「ああ、ケーキがありましたね。紅茶淹れ直しましょうか」
「・・・本当に、よかったのか?」
「いいんです。ただ、ちょっと・・・嫌な思いはしたかな」
自分が原因ですけれど。
スズはお気に入りの茶筒を開けた。
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mokuji |