そっとクザンは視線をスズと男に向けた。 2人はその視線に全く気付かない。
「別に、写真の事は怒ってないですよ。」
「うそつけ」
「ホントです。ただ、腹の底から悔しかった。負けた気がしたんです。見えない誰かに。」
煮えたぎる怒りではなかった。腹の底にあった黒真珠のような鉄が、触ると熱かっただけだ。 それはスズをイラつかせはしたが、噛みつきはしなかった。
「これからもあぁいうことをされると気分が悪いですが、ここで『もう二度と』と誓ってくださるのなら・・・不問にしてもいいです」
「な・・・」
「ネガはすべて没収ですよ」
冗談っぽくそう言うと、いつもの笑顔を向けた。
「・・・そんなんじゃ、俺も収まりがつかねぇだろう」
苦虫を噛んだように、男の顔が歪む。
その顔を見据えて、スズは声をあげた。
「ならば自責の念で押しつぶされてください」
「?」
男の理解は少し追いつかない。
「頬を噛むほど頭の中で葛藤してください。満足がいかないというならば、そうやってケジメをつけてください」
追いついた理解。 けれど凛として言い放たれた残酷な言葉に、男は圧倒される。
「なんだって」
「私は貴方の誰かによる処罰より、そちらを望みます」
スズはそう言いきると、また笑った。
「・・・っ」
眩しいくらいにすがすがしい笑顔。 その顔に向かって何か異議を立てる気になれなかった。
「ああ、ああ・・・誓うよ。そんで、悩んで悩んで、前を向く。お前はそれをご所望なんだな?」
「その通りです」
「じゃあその通りにしよう。そうしないと俺の詫びはお前に届かないんだろ」
「ふふ、信じてますね」
あとでネガを目の前で燃やしてやるよ、と言って男は立ち上がった。
「青雉大将に、よろしくな」
「はい、伝えます」
「・・・すまなかった」
「だから、そんな安い言葉いりません」
「それなら、ありがとう・・・か。紅茶美味かった」
「そっちのほうが、頂いて嬉しいです」
「・・・じゃあな」
「ええ!また」
男はクザンのほうへ振り替えることもなく、ドアを開けた。
(また、か)
男はスズの見惚れた困り顔を残して、部屋を去った。
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