ユーリが転がる死体を替えのカーテンでくるんでどこかへ持っていき、イヴァンが冷めてしまった料理の代わりにサンドウィッチとシャンパンを持ってきた。

「申し訳ございません、料理はすべてお客様に出してしまったようで・・・このようなありあわせの物しかご用意できませんでした・・・」

「美味しそう!」

パンより厚い卵焼き、鈍く光る生ハムと様々な葉物野菜とクリームチーズ、オーソドックスなサラダサンドやハムと卵フィリングなど。
フライをはさんだ分厚いものや、みずみずしいトマトが覗いているものもあった。



スズがサンドウィッチに釘付けになっている後ろで、クザンはアナスタシアとユーリと向かい合い険しい顔をしていた。

「こんなに似てるなら、そりゃあ影武者にとも思うだろうなァ。俺だって立場が逆ならそうするさ」


「いいや、我の体で事足りることだ。こいつらが勝手に」


「はあ・・・あなたはご自分がどれほど危うい立場なのかまだわからないと?」

ユーリが主の主張に痛む頭を押さえた。


「何を申すか。そもそも他人を巻き込んでよい理由などないであろう!」

「私どもにはあなたを守る使命があります!」


アナスタシアとユーリの言い合いが始まった。


その言い合いを止めもせず、イヴァンがスズのもとから離れてこちらへ来た。


「申し訳ございません。サクラ様に今回のことを頼んだのは私です」

「・・・そうか。あんたが。」

「ええ、彼女が危険な目にあうことも承知です。それでも頼みました」

「・・・」

クザンがイヴァンの目を見据える。イヴァンもクザンから目をそらさない。
二人の間の空気がピンと張りつめる。


「まあ、スズちゃんが決めたんなら別にいいさ。俺は万が一がないように守るさ」

矢であろうが鉛玉であろうが、ナイフであろうが。
その白い肌に届くまえに自分が薙ぎ落とせばいいだけの話。

「ありがとうございます・・・」




「そもそもあの嬢ちゃんを狙ってるのは誰だ?」

クザンはユーリと言い合うアナスタシアを視線で指した。
2人の言い合いはヒートアップしているようで、ユーリの足がアナスタシアに踏みつけられている。

「主から何か話は?」

「お嬢ちゃんが王になったいきさつは聞いた」

「では、大体の敵が見えているのではありませんか?」

「・・・そんな明け透けな暗殺なんて聞いたことがない」

クザンの頭にはとっくに敵の正体が浮かんでいた。
けれどあまりにテンプレとも言える状況に裏で糸を引いているやつがいるのではと疑わずにはいられなかった。

「大臣が王を・・・よく聞く話ですからね。けれど、だからそこです」

大臣が王を殺して国を乗っ取るだなんて、大昔から繰り返されてきた国変えの一つの儀式のようなものだ。
だからこそ王もそれを懸念し、疑いのある者の首をはね、時には手に余る金を渡す。どの国も例外なく、歴史を振り返れば無数の屍と財宝の山の上に存在している。

多少の違いはあれど、アナスタシアもその例に漏れず、大臣に命を狙われている。


「でもこの場合、殺したいほど憎いのはあの子じゃないだろう」

「アナスタシア様だけじゃありません。彼らが憎いのはその血脈。代々受け継がれてきたその血です。」

「可哀想になァ。・・・王族ってのは難儀だねェ」

「ええ、本当に。」

イヴァンは苦笑する。

「よく、ここまで育ってこられました」

「・・・」

クザンは無言で、歯を剥きあうアナスタシアとユーリを眺めた。


「あの子も、うちのと変わらんくらい血に染まってるねェ」

たわわに実った黄金の稲穂のような髪に、いままで何人の血がしみこんだのか。雪のような柔肌にどれほどの血が滴り落ちたのか。
身近でスズを見てきたクザンには、同じ姿をするアナスタシアの血沼に佇む姿が容易に想像できた。


『役立たずのアナスタシア』
『私なんぞ、この国の飾りでしかない』

『しかし現実、この国を支えているのは私だ。手をいくら汚そうとも、私がそれを受け入れるだけでこの国は生きていける』


月明かりの差す物置で、アナスタシアに聞いた話を思い出した。


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mokuji


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