そのころ、スズの元へもう一人の執事がやってきていた。 同じく主を探していたその執事は初めこそスズを主と勘違いをしたが、部屋へ一歩入るなり「お前は誰だ」と腰の帯剣を構えた。 そして事のあらましを説明すると「そうでしたか」と早急に納得した。
「アナスタシア様ー!!」 「違います!!」
スズの背中をロックするようにがっちりと回された腕。すり寄る頬。 背の高さが彼のほうが断然上なので、第三者が見れば犬か何かを可愛がっているように見えるのかもしれない。 スズが正体を話し「そうですか」と納得した男はどこにいるのかわからない主を想い、瓜二つのスズを彼女の代わりと言わんばかりに撫で回し、泣きわめき、今に至る。
「申し訳ございません。つい・・・ああ、アナスタシア様ー!!」
「それはもういいですから!」
執事の顎を両手で押さえ、引きはがそうと身をよじる。
先ほどまで部屋にいた男とは対照的な、どうにも落着きのない男。 同じ執事とは思えないその違いにスズは頭を痛めた。
(早く帰ってこないかな・・・)
クザンと食べ物を探しに行ったもう一人の執事はまだ帰ってこない。
「ああ、何処に。何処に」
ポンポンポンと盛った髪を叩かれる。
「大丈夫です。城の中にはおられると思います」
「もしものことがあれば私は腹を切って自害してもやり切れない・・・」
涙でびしょびしょになったメガネがずれ落ちた。
「それにしてもよく分かりましたね。すぐにバレてしまうなんて。さっきの執事さんはなかなか私だと認識してくれなかったですよ。あの執事さんが勘違いしてるだけで、実はそんなに似ていないのですか?」
「いいえ、瓜二つです。ただし目の色が違います」
ずれたメガネをくいっと押し上げて誇らしげにそう言った。
「目の色?」 「ええ、アナスタシア様は雪原のようなグレーの瞳をしている。ああアナスタシア様ー!」
執事はスズの肩をつかみ、再びさめざめと泣き始めた。
「だから私はサクラ・スズですってば!」
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