26:灰色


 
クザンは突然腕に飛び込んできた女を抱きしめていた。


「まったく、心配したんだから。」
「は、離せ!」

もごもごと胸の中で暴れる女。
金糸のような滑らかな髪が腕のなかで踊る。


「それよりずいぶん見事に人並みに流されてたけど、怪我してねェか。」

「離せと言っている!」


女があまりにも嫌々と首を振るものだから、クザンは惜しみつつも腕を緩めてやった。

とたん、女はクザンにビンタする。
パチンと歯切れのいい音がした。

「無礼者!もげろ!!」

「も、もげろ?!ひどい!」

じんじんと赤くなりつつある頬を抑えてクザンは嘆いた。

「いつからそんなこと言うようになった?!サカズキか!ボルサリーノか!誰に吹きこまれたの?!」

「黙れ!邪魔だ!退け!」

ねぇ!と腕を広げて問いただすクザンを押しのけると、女はその脇を抜け、走り去ろうとした。
クザンはその女の腕をすかさず掴む。

「ちょっと待ちなさい!・・・って、あれ?」
「離せバカ者!」

「スズちゃん、じゃない」

クザンは捕まえた腕の先、その顔をまじまじと眺めた。


(すごい、瓜二つ)


月明かりに照らされたその顔は自分の部下・スズそのものであった。豊かな金の髪は特に、彼女のそれだ。

「なんだ、誰かと間違えたのか?フン、真症のバカ者じゃったか」

クスクスと蔑むように笑われて、クザンはすこし楽しくなった。

(普段スズちゃんはこんなこと言わないから・・・新鮮!違う子だけど!)



「・・・いつまで我の腕を掴んでいるつもりか。そうだ、首をはねてやろう」
「おいおい、そんな怖いことをいうな」

女は、叱りながらもニヤーっと笑うクザンに頬がヒクリとひきつった。背筋がぞわりとしたのは彼女の勘違いではないだろう。

「いやァ、こんなに似た子がいるとはなァ・・・2人囲んで酒が飲みたい」
「囲ッ・・・!」

女は後ずさった。


ヒュン、

後ずさる彼女へ銀色に輝く矢じりが迫った。
矢羽が空気を裂く微かな音を聞いて、クザンが彼女の頭に手をかざした。

「!」

女が目の前に現れたクザンの手に悪態をつこうと口を開きかけたとき、ポトンと廊下に一本の矢が落ちた。

「危ないじゃないの」
「な・・・」

パキパキと音を立ててクザンの手の氷が溶けていく。

「寸分たがわず眉間狙ってくるなんて・・・プロか?」
「なんじゃ、これは」
「触っちゃダメだからね。何か塗られてるかも」
「ッ」

女は矢を拾おうとしていた腕をひっこめた。

「俺の影に隠れてくれる?追撃が来ないとも限らないし・・・」
「お前、手はなんともないのか!?」
「心配してくれるの?優しいねえ。そういうとこは似てるのになァ」
「おい、どうなんだ!まさか負傷したのか!」

氷の溶けきった手を女の頭に添えてぐりぐりとなでてやる。

「大丈夫。この通り」

「ええい!離せ!心配して損をした!」

クザンは女を矢の飛んできた先から死角になるように隠しながらそばにある部屋にはいった。


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