「本当に、申し訳ございませんッ!!」
スズの目の前で執事は機械のように鋭角にお辞儀をした。
「ああ・・・こんなに瓜二つな方がおられるとは」 「そんなに似てますか?」 「ええ、それはもう」
この執事が言うには、パーティー会場で主とはぐれたらしい。
「ううむ。どこに居られるんでしょうね」 「はぁ・・・私にもさっぱりでして・・・」
自由奔放なお方ですから、と困ったようにけれど嬉しそう笑う執事。 その仕草から、彼が主をたいそう慕っていることがわかる。
「一緒に探しましょうか?」 「いえいえ、そんな。これ以上のご迷惑をおかけするわけにはいきま・・・・」
執事は歯切れが悪く、言葉を途中で止めた。
「どうかしましたか?」
「・・・」
執事の顔がどんどんとかげる。雲にさえぎられる月明かりのせいだけではない。 黒い影の中、2つの目だけが意思を持ってゆらりと艶めく。
「?」
スズは不思議そうに彼を眺めた。 彼の双灯がスズの青い目をとらえた。
「海軍本部の将校さま、でございましたね?」 「は、はい?そうです」
「・・・ご無礼は承知です。私どもを助けてください」 「? はい、一生懸命探しますよ」
「そうではありません。むしろ、どこかで隠れていただいたほうがいい」 「へ?」
「サクラ様、私についてきていただけますか」
執事はそういうとスズの腕を引いた。
「あの! どこへ?!」
カツン、 執事の真っ黒な革靴が音を立てて止まる。
「貴方を海軍将校と見込んで。主の代理を願いたい」 「だ、代理!?」
無理です!と叫ぶ前に、口元に人差し指をそっと当てられる。 手袋が唇に触れてくすぐったい。
「話は後程。時間がありません」
スズはそのまま腕を引かれて廊下を執事と走った。
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mokuji |