引きずられるような格好で、スズはクザンと執務室へと帰って来た。
しかしクザンのにやにやはまだ解けない。

「今日はどこにも行かないから安心してね」

「じゃあ仕事してください。はい、これクザンさんの分。昨日、私が代わりに会議に出ましたのでちゃんとその資料目を通して置いて下さいね」

「はいはーい」

ふんふん、と鼻歌を歌うように返事をしたクザンに

(・・・鬱陶しい)

うんざりとしたスズであった。


やれやれ、と彼女が自分の席につこうとするとドアのノックが聞こえた。


「失礼します」


ガチャリ、と入って来たのは豊かな蜂蜜色の髪をしたデュマ・ミレディーである。

「わー!ミレディさん!!」

「スズさん、ごきげんよう。あとそれと青雉大将、も。」

「なにその「ついで」って感じは」

「ふふ、なんのことでしょう」

含み笑うと彼女の美しさはより一層ひきたった。
男ならだれでも見惚れるだろう。彼女の年齢がいかほどか知っているクザンを除いては。


「そうだ!ミレディーさんお茶淹れますね!」

「あら、嬉しい。スズさんの淹れるお茶はとても美味しいですから」

「少々お待ち下さいね」

スズはすぐさま給湯室へ向かい、ケトルで湯を沸かした。





「何しに来たの?」

スズのいない執務室で、クザンとミレディーが対峙する。

「ちょっと野暮用です。」

「本当に野暮だなァ。せっかくスズちゃんと二人でいたのに」

ちぇ、と口をとがらせたクザンにミレディーは見下すような目線を送った。

「じゃあ野暮ではないわね。無比に素晴らしいタイミングだわ」

「・・・あんたは俺たちをどうしたいんだ、全く」

口では絶対に敵わない。
クザンは彼女から目をそむけた。

以前、ミレディーがクザンとスズを近づけようとしていたことがあった。
なのに今回の言いようはなんだ。クザンは顔をしかめた。


「スズさん、パーティ参加するのでしょう?」

「・・・え?あんたにまで話まわってんの?」

あの仕事や規則に煩いセンゴクが、その話をあちこちに話して回るとは考え難い。

「ちょっとお仕事がありまして」

「?」

仕事?


「前にスズさんが服用させられた麻痺薬があるのを覚えています?」

「・・・」

覚えている。
彼女が昔の仲間と戦闘中、相手が使った薬が確か麻痺系だった、とクザンは思い出した。

「あの薬のアンプルが、ひと月前わたくしのところに来たのです。成分分析をして、今回のパーティに参加するある国で生産されていることがわかりました。」

「ほう」

「ちなみにこれがサンプルですわ」

ミレディーは紫色をした液体の入った瓶をとりだした。
その瓶の形状は香水のものとそっくりで、とてもいい香りがするので、香水店に置いてあれば手にとってしまうようなものだった。


「すごい匂いだね」

その瓶から発せられる甘い匂いは、どこかで嗅いだ覚えがあるようだった。

「これはあくまで私の作った偽物ですから。本物はこんな匂いじゃありませんわ。むしろほぼ無臭ね」

「ふーん・・・」



「ぶどうの良い香りがしますね」

マグカップを右手に2つ、左手に1つ持ちながら、スズが給湯室から帰って来た。
両手からたちこめる芳しいローズの香りに負けないほど完備なぶどうの香りがミレディの持つ香水瓶から溢れていた。

(ああ、そうだ。ぶどうだ)

クザンは嗅いだことのある匂いが何なのか分かった。
そして、スズの鼻は流石だと思った。

(本当に鼻がいいなァ、この子は)


「? どうかしましたか、クザンさん。はい、ローズティーです」

「ん、別に。ありがとね」


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mokuji


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