クザンに記憶の話をしてからもう幾日も経った。 彼からのアクションはない。 それよか、最近よく見かけない日がある。
「嫌われたかなあ・・・」
思考は曇りがち。
急がなければいけないのに、もう昼も過ぎ「遅れるならば、もういっそのこと」と執務室までゆったり歩いた。 昼の空気は夜と同じ場所で澱んでいても、夜とは匂いが違う。 胸一杯に吸えば、それはエネルギーになる。
「・・・なんだろ、いい匂いがする」
けれど今日の廊下の匂いは夜のそれとも昼のそれとも少し違った。 明らかな人工物の、もっと言えば香水の香り。 それもうんと、上品な香り。
かすかな匂いにも敏感なスズの鼻は、無意識にそれからその匂いを追い掛けた。
「・・・」
そしてたどり着いたのはいつもの青雉執務室。
(どうしてだろう、嫌な予感しかしない)
ドアを開けようとノブを握る手に力がこもった。
コンコン、
「失礼します!」
えいっと開けた。
中はもぬけの殻だった。
「・・・クザンさんまたいない」
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mokuji |