数十分前。

昼を既にすぎた頃、青雉執務室のソファで目を覚ましたスズは横でまだ目を閉じているクザンにペコリと頭を下げて、港町へと向かった。

(クザンさんなら、夕方まできっと寝てるし・・・何かおやつでも買って帰って一緒に食べよう)

スズはクザンに「どこか出かけよう」と前日言われていた。なので部屋を出てきたことに多少の申し訳なさを感じたが、時間はすでに昼だ。
おそらく今から出かけるのは無理だろう。
それに、久しぶりの休みを棒に振るのも勿体ない。

(ひとりなら融通も効きます)


スズは空いたお腹と、何を食べようかと話し合いながら足を踏み出した。

(甘いものは買って帰るとして・・・ひとまずお昼ご飯食べないとなあ)

うーんと唸って晴れ渡る空を見たときだった。


ぱしゃり


すっかり聞き慣れたシャッター音がスズの耳にはいる。


「性懲りもなく・・・」

左の足を後ろへ引き、

「捕まえてやる・・・!」

瞬間。スズは斜め前に走りだした。

「えいっ」


塀の上にトンと飛び上がると、立ち上がり、逃げる影が無いか見渡す。


「・・・いないなぁ」

前方180度、見渡しかぎりそんな人間は見当たらない。

「逃げ足が速いったら、もう」


「おーい、お嬢ちゃん。そんなとこ登っちゃ駄目だよ。危ないよ。」

「へ?」

スズが足元のほうへ目をやると、塀よりすこし低いところに白髪まじりの頭をした初老の男性がニコニコと笑いかけていた。
そして、おじさんの目には敬礼をするようにおでこに手を当てているスズ。


(・・・ぐぐ、これは恥ずかしい)


塀の上で仁王立ちの自分の姿が自尊心に訴えて、スズはそそくさと地上に降りた。


(マリンフォードの・・・海軍本部少将たる者が・・・)




「すみません、お騒がせしました」

ぺこり、とおじさんへ頭をさげた。

「はは、怪我すると危ないからねえ。お嬢ちゃんせっかくのべっぴんさんなのに、顔に傷でもついたら大変だよ?」

「あ、はは。いえいえ、そんな」

「それに海兵に見つかると怒られちゃうよ。じゃあね」

そう言っておじさんは手を振ってどこかへ歩いて行った。

「ははは・・・あはは、」


(わ、笑えない・・・)

センゴクに呼びだしを受け、がみがみとどやされる自分が映画のように脳裏に映し出された。


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mokuji


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