引き寄せられ、クザンの胸がすぐ目の前にある。 いつもなら逃げるスズだが、今回はただ黙って彼が握っている手を見つめた。
「これくらい側にいて、俺のほうを見ててほしい」
頭上から呟くように言われた言葉に、スズはゆっくり顔を上げた。
「でも、私が・・・私がクザンを恋人として愛せなければ、成立しないのでしょう? 私はクザンさんが好きです。大好きですよ。 でも、この好きはガープさんに対する好きと変わらないんです。」
「・・・時々、俺にひっつきたくならない?」
「? 夏とかですか」
「(ううん・・・)オールシーズンで」
「? ひっつきたくは、ならないです。多分。ただ・・・」
自分の手を握っているクザンに手を重ねた。
「この手は温かくていいです。このまま握っていたいと思えます」
「・・・そう」
(手だけ愛されてもなァ・・・)
「指長いですね」と言われながら弄られる自分の指が少し憎らしい。
「あー・・・もういいかな。とりあえず嫌われてないならいいや」
結局いつもと変わらない調子に収まり、クザンは息を吐いた。
「・・・いいんですか」
「好きがどんな事か分かんないってんだから、他に好きな人がいるわけでもないんでしょ?」
「まぁ、」
「そのうち『クザン愛してる抱いて!』くらい言わせられるように努力するよ」
「!! なんですかそのハレンチな女!」
気持ちの悪い声音(おそらくスズを真似たもの)を出したクザンから彼女はササッと離れた。
「とにかく、俺はスズちゃんが好きだから。とことんお節介焼かせてもらうし、過保護にもなる。ストーカーの件、1人でまた同じように対処する気なら部屋に監禁しかねないよ」
(ひっ・・・!)
ね、と強制でしかない同意を求められウンウンとスズは頷いた。
「あと、たまにスキンシップとりたくなったらとってもいい?」
「(スキンシップ?)・・・軽いものならいいですよ」
「ん。じゃあこっちおいで」
「?」
「肩揉んであげるよ。余計な心労させたし、最近疲れてガチガチになってるでしょ」
「喜んで!」
日より早く不意に朝を迎えた2人は、目覚めた海兵で食堂が賑わい始めるころ、部屋のソファで肩を互いに預け再び眠りについた。
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