「・・・好きになる理由なら沢山あるじゃない」

クザンはスズの手を掴んだ。

「こんなに美人で可愛くて仕事の出来る子なんだから」

ね、と持った手を少し持ち上げた。
包み込むように握られたクザンの手が温かい。
それがスズにはすごく心地がよかった。


「どう・・・したいんですか?」

この自分を好きだとして、

「私に何をしてほしいんですか?」

世に何万もの恋人たちがいることを分かっている。
そして彼らが『愛してる』という言葉で繋がっていることも分かっている。

ただ、スズには彼らの語る『愛』と自分が抱く周りの人間への『愛』がどう違うのか理解できない。

そして自分の分かる『愛』は無償だ。見返りを求めて与えたことはない。

「私と仮に付き合うことになったとしてクザンさんに何かいいことがあるんですか?」

もしスズの理解する『愛』と異なるならば、彼らは何か利益のために互いを愛し合うのだろか。
スズには、なぜ友達ではなく恋人でなくてはならないのか分からなかった。


「そうねェ、スズちゃんを1日中、とりあえず独占するかな。」

「今日だってずっと同じ部屋でした」

「そういうのじゃなくてね。ずっと手の届く範囲にスズちゃんがいる。そんな環境が欲しい」

「それは友達じゃ駄目なんですか」

「・・・駄目、だなァ。」

クザンは困ったように笑った。

「恋人じゃないと出来ないことだってあるでしょ?」

「言い方が悪くなりますが、それは他の女性でも代わりが勤まるのでは?」

「・・・好きな子だから、知りたくなるんだよ」

「・・・」

「好きだから、どんな表情も姿も見て、そして自分だけを見て欲しくなる。
愛しくて仕方ないって気持ち、スズちゃんには分からない?」

握った手の指を自分の指と絡ませながらクザンはスズに聞いた。


「それは友達を想う愛しさと違うのですか?」

「そうだなァ、恋人を想う愛しさは独占欲だろうな」

「独占欲・・・」

「そう、それもやっかいなほどしつこいやつ」

クザンはスズを引き寄せた。


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mokuji


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