「なんでこんなこと、」
「さて、なんでだろうねェ」
「・・・セクハラですか」
ぐず、と鼻を鳴らせながら聞くとピタリと頭を撫でていた手が止まる。
「いいの?セクハラして」
「いいわけっ、ないでしょう!それにもうセクハラです!!」
膝を降りようにも腰のあたりを押さえられていて脱出することが出来ない。
「ふざけてないで降ろしてください」
「ふざけてないのに」
「嘘つかないでください」
「・・・」
「泣いた私が悪かったですから、だから」
「・・・ねェ、スズちゃん」
「もう、なんですかっ」
今度こそ面と向かって文句をいってやる、と顔を振りあげてみたスズの視界いっぱいにクザンの顔が映る。
「わ」
目の前に突然何かが現れると、人というのはそれを何なのか観察してしまう。 その生理現象で一時停止したスズの耳に、クザンが呟き掛ける。
「好きだよ」
「今回の件、どれだけ俺が気に病んだか知ってるの?」
普段聞きなれた声より少し熱を含んだ声。
何が起こったのか。 スズはただ目を見開いて固まった。
「・・・ごめん、なさい」
そして気づくと訳も分からず謝ってる自分がいた。
「大丈夫だとかって言われるの、辛いってわからねェのかなァ・・・」
ぼすん、
クザンがスズにもたれかかり、二人の間の隙間がなくなる。
「クザンさ、ん?」
「何?」
「なんで」
なんでこんなことをするのか。 スズの頭の容量を遥かに超えた出来事が、お風呂上りから一気に頭になだれ込んだ。 そのせいで何が何やらスズは理解できていない。
「あまりにも自分をいじめすぎるスズちゃんに御仕置きも兼ねてね」
「おしお、き・・・」
声が、息が、脈動が、すべてスズの鼓膜を震わせる。
「好きな子が自分苛めてたら、そりゃア止めたくもなるでしょ」
「好きな子・・・」
(誰のこと・・・?)
・・・ああ、そうだ。 さっき私に向かって、
「クザンさんは・・・私のこと、」
「好きだよ」
「・・・そんなっ」
いままで仲良く仕事をしていたのは、そのせいだったのか。 ふいにそんな考えがよぎる。
「嘘ですよね、冗談ですよね、」
「こんな時に嘘つくわけないでしょ」
「・・・っ、じゃあ何でこんな」
(私なんか、)
最後まで言わさないようにするためか、クザンはスズに口付けた。 彼の副官になってから今までの時間を裏切られたような、そんな味のキスだった。
(なんて、苦いんだ)
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