ドライヤーの熱い風をストップさせて、浴室からクザンの部屋にでた。 すぐに低い机の前にクザンが座り込んでいるのが目に入る。
「お風呂お先にいただきました」
「はい、お疲れ様」
クザンの手にはティーカップ。 ふんわりと香る爽やかなミント。
「! ミントティーですか。良い香り・・・」
「うん、淹れてみた。スズちゃんほど美味しくは淹れられてないだろうけど」
「ううん。香りで分かります。とっても上手です」
豊かな香りが開いているのは、美味しく淹れられた証拠。 スズはクザンからカップを受け取るとそれを口にする。
「お風呂上りに頂くには実に贅沢なお茶ですねえ」
「そう?それにしても、スズちゃんはたくさんの紅茶をここに持ち込んでるのね」
「ふふ、すごいでしょう?これ名付けてスズコレクション」
「たしかにコレクションってくらいたくさんあったな。何にしようか迷ったんだけど、一番これが気になったから淹れてみた。勝手にごめんね」
「いえいえ、ご自由にどうぞ。それに御目が高いです、クザンさん。夏の初めに収穫されたミントでつくるミントティーは暑いこの時期に飲むのが一番の贅沢なのですよ」
「へェ。うん、確かに美味しいねェ」
「はい、美味しいです。それにクザンさんの淹れ方がよかったからですねえ」
風呂上りに火照った身体へミントの爽やかな風味が、すうと吸い込まれる。今日が熱帯夜だということを一瞬忘れてしまうほどに。
「スズちゃん、辛かったら俺を頼りなさいよ」
ミントティーを飲み終えたクザンがカップを机へ置いてそう呟いた。
「? 辛くないですよ。」
「辛くないわけないでしょうに。自分で全部しょいこんじゃ、そのうち押しつぶされちゃうよ」
「押しつぶされませんよ。だって、誰かがいつもどこかで助けてくれています。クザンさんみたいに」
このミントティーのワケ。
「気を遣わせてごめんなさい。」
「あらら、バレバレ?」
「はい、数あるフレーバーティーの中からこれを選んでくれてありがとうございます。」
「・・・気分、ちょっとでも晴れたか?」
「ええ、すっきりです!」
「そう、ならよかった。」
そう言ってスズのほうに手を伸ばす。
「?」
そして疑問符を浮かべるスズの頬に、そっと触れた。 一瞬何が起きたか分からないスズ。 頬から伝わる暖かさではっと我に返る。
「あ、のっ」
「こんなことしかできないなんて情けなくて泣きたくなる」
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mokuji |