夜、スズはクザンの言いつけ通り執務室にいた。
「修学旅行っていうんでしたっけ、こう・・・みんなで寝泊まりする遠足は」
「うん、確か」
「なんというか、それの気分です。行ったことないんですけれど」
スズはクザンの部屋から借りた掛け布団と枕をソファに準備した。
「悪く言えば徹夜残業の気分です」
「それはゾッとするなァ・・・」
寝ても覚めても執務室。 仕事嫌いな人間なら発狂しかねない状況だ。
「布団敷けたら風呂はいっちゃいなさい。俺の風呂つかっていいから」
「いいんですか?」
「どうぞどうぞ。お湯もう張ってあるから」
「では、お先にいただきます!」
枕を定位置に置き終え、ぽんぽんと叩く。 そしてあらかじめ準備してあったお風呂セットを下げ、スズは執務室からクザンの部屋に続く扉をあける。
(わ、クザンさんのにおい)
部屋を開けてすぐに、ベルガモットチグレンとラベンダーのような、またムスクのような香りが鼻にふんわりと香る。 それらはいつもクザンに近寄ると香る香りだった。
(いいにおい・・・)
クザンからこちらが見えないのをいい事に、すんすんと部屋に滞る匂いを嗅いだ。
「お風呂、そのまま真っすぐいったらすぐ右手に見えるから」
「! はい!!」
後ろから聞こえた声にびくんと心臓が跳ねた。
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mokuji |