18:あなたが泣くから


『泣いてなんか、やりません』

先日、そう言ったスズ。
結局あの日は執務室に泊ることもなく、彼女は自室へと帰って行った。
危ないから、と執務室での寝泊まりを勧めるクザンに『負けた気がするので』と言ったのだ。


「おはようございます」

「ん、おはよう」

あれから数日たった今も、まだストーカー被害は止んではいない。

「昨日は何ともなかった?」

「はい、昨日は部屋の前にも居なかったようです」

心配そうに尋ねるクザンに、スズは笑顔でそう返した。



「あ、そうそう。明日ね、俺ちょっと出かけるから」

「? どこへ行かれるのですか」

いつもふらりと出掛けるクザンがそう伝えてきた。きっと仕事に違いないとスズは思った。
なんて珍しいことだ。
スズは驚いて青い目をぱちぱちとしながらその行き先を聞いた。

(クザンさん、改心してくれたんですね・・・!)

涙を流したいほどに感心するスズ。
しかしそれはすぐさま崩れ去る。

「どこになるだろうねェ」

「・・・サボりですか」

「まァ・・・個人的な用事」
「サボるんですね」

(少しでも更生を期待した私が馬鹿でした)

やはりクザンはいつものクザン。むしろ堂々とサボリ宣言をするあたりいつもよりタチが悪いかもしれない。


「スズちゃん一緒に来てくれない?」

「片棒を担げ、ということですか」

それを聞いて、ノンノン!と人差し指を動かすクザン。

「(なんでしょう・・・とっても、イライラする・・・)じゃあどういうことなんですか」

「視察っていう名目で書類出してくれねェか」

「なッ・・・それじゃ!思いっきり・・・!」

そう、思いっきりサボリの共犯者になれという命令。
スズはペンを持った腕に思わず力をいれてしまい、ペン先を机にぶつけてへし折った。
その様子を見たクザンは「やりすぎた」と思った。


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mokuji


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