ぽろり、と落ちたウロコは涙なんかではなくて。
「最近、気配を感じると。さっき言いましたよね・・・」
「うん、聞いたよ」
「気配を感じる時、いつも聞く音があるんです・・・」
カメラのシャッターを押す音
食堂でご飯を食べている時、廊下を歩いている時、人と話している時。いつの時も周りに見知らぬ気配を感じると、音が聞こえた。
「それって、写真撮られてるってことじゃないのよ」
「そう、ですね・・・。迂闊でした。久しく写真なんて撮られていなかったので・・・」
最近はずっと撮られていたのだけれど。 スズはゾクっと背筋が冷えるのを感じた。
「いつも撮られてたの?」
「・・・ご飯を食べてる時なんかよく。」
(! まさか・・・)
クザンは自室への扉をあけ、すぐさま机の引き出しを開けた。 引き出しの一番上にあったものを引っ掴むと、執務室へ急いでもどってくる。
「これ」
クザンが差し出した右手は、一枚の写真を持っていた。
「サカズキが廊下で拾って、俺に持ってきたもんだ」
「私の写真・・・?」
好物のカレーを頬張る金糸の髪の女。それは紛れもなくスズ自身であった。
「これ、もしかしたらだけど・・・そいつが撮ったんじゃない?」
「ストーカーの人が・・・」
「本人に許可もとらず勝手に撮っちゃってるみたいね」
スズは目の前がボウと白くなるのを感じて、振り払うように頭を振った。
「・・・大丈夫か?」
「・・・ええ、大丈夫です!いやぁ、写真まで撮られているなんて本当に不覚でした。しかもそれがクザンさんの手にまで渡っているとは」
「・・・」
「私としたことが。背後をまんまと取られてしまいました。困ったものですねえ。あ、撮られたと取られたをかけたんじゃないですよ」
まいった、と笑うスズは声こそ明るいが目元には今にも泣きだしそうな色がにじんでいた。眉毛なんて、くしゃりと曲がってしまっている。
「無理するな」
スズの強がる姿が痛々しくて、クザンはいっそ抱きしめてしまいたくなった。
「・・・大丈夫です。こんなことで泣いてなんか、やりません」
目をぎゅっと開くスズは泣くのを我慢している子供のようであった。
(頭の中が困惑で埋めつくされたら、一時でも忘れられるのかねェ・・・)
困ってうろたえてつまらない事なんて頭から追い出されればいいと思った。 だが、そんなことをしても結局、スズの頭はすべて受け入れて悩むだけだ。
クザンはスズのほうへ向けた腕をそっとひっこめた。
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mokuji |