「では、モモンガ中将。行って参りますわ」

「あぁ、気をつけてな」

モモンガ中将の部屋から蜂蜜色の髪を持った美しい女性が出てくる。
ミレディー少将。男ならば誰でも振り向くであろう美貌を持った彼女は、実の名をアンヌという。
彼女は自らの存在を偽りつつ、海軍本部と医療薬剤開発局を行き来している人間だ。

「さて、」

ミレディーは腕にかけていた白衣を羽織り、廊下を進んだ。


(モルモットにするには惜しい子なのですけれど・・・。悪魔の子となれば話は別ですものね)



カツ、カツ、

ヒールのない皮靴を履いているためか、いつも彼女が発しているよりも控えめな音が響く。


(いつになっても、慣れない・・・)

これから自分が迎えにいかねばならないモルモットのことを考えると踏み出す一歩一歩が酷く重く感じた。



「! あら。」

鬱蒼としたものが広がる頭の中にパッと光が差し込む。


「スズさんではないですか。なぜこんなところに?」

ミレディーは自分の愛する彼女へ手を伸ばした。


「ずっとこんな廊下に?酷い仕打ちを受けましたね。もう大丈夫ですから」

彼女は彼女を拾い上げるとまじまじと眺める。

「それにしても誰が落としたのかしら」

ミレディーの拾ったものはスズの写真だった。
髪を後ろへなびかせながら廊下を疾走する彼女の姿がそこに収められている。

「・・・貰っておきましょう」

そうボソリと呟くと、ミレディーは自分の白衣の胸ポケットへ写真をしまった。


昼を少し回った、日差しの厳しい廊下でのことだった。


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mokuji


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