クザンは、クッションの襲来を寸でのところで避ける。

「ごめんごめん。俺は別にここに泊ってくれても構わねェが・・・」

「! 本当ですか、」

「でも布団とか俺の使いまわしよ?」

「構いません。私、布団が変わっても問題なく寝れますから」

むしろ布団はなくても大丈夫です、とスズはニコニコ笑った。

(いや、なんていうか・・・俺が気を使うんだけども)

この暑い季節だ。暑くて汗をかくことがあっても、寒さに震えることはないだろう。もし寒い時は冷房の電源を落とせばいい。
此処がヒエヒエの実の能力者青雉の執務室だから常に氷が張っている、なんてこともないのだから。

いや、話はそういうことじゃないのだ。
スズの異性に対する無防備っぷりが問題なのだ。


「(あー・・・)いっそ俺の部屋つかう?俺がこっちで寝るから」

「それは申し訳なさすぎます」

「まぁ、あれだ。スズちゃんの好きにすりゃあいい。」

「ありがとうございます!」

(キラキラしちゃって、まァ。でも・・・)

きっとスズは自分の部屋の前にいる気配の正体を知っている。そこまでいかずともきっと、うすうす勘付いている。
そしてクザンもなんとなく、話を聞いたときに頭にはそれが浮かんだ。
ただ、スズがなぜ口に出してそれを言わないのか。まだその謎解けていない。


「ねぇ、スズちゃん。もしかしてだけど、ストーカー?」

「・・・」

思ったことを、ただストレートに口に出した。
それを聞いて、またさっきのようにスズの顔が陰る。それは図星だと。


「(やっぱり。)なんでそう言わないの。」

そう言ってから、クザンは自分の言葉が失言だったと後悔した。

(そうだよな、「ストーカーが、」とは口に出して言いにくいか)


やれやれと自分の頭をいさめるようにかきむしっていると、スズがぼそりとつぶやいた。


「やっぱり、ストーカーですかね・・・」

スズの手はソファの布をぎゅうと握りしめている。

「ストーカーって本当にあるんですか・・・」

「オバケよりは幾分も現実的でしょうに」

「う・・・そうですよね、オバケよりはマシですよね」

スズの頭の中でオバケとストーカーが秤に掛けられたらしい。

「いや、たぶんストーカーのほうがタチが悪いからね」

「? そうですか?」

「そうだよ」

どこか違う心配をしているスズに、クザンはどうしたものかと心配になる。


「こんなに可愛いんだからストーカーの一人や二人、いてもおかしくないだろうけどさ・・・」

「じゃあやはりオバケでしょうか」

可愛くないですもん、と言うスズに頭が痛くなるクザン。

(この子は鏡を見たことがねェのか。あぁ、話もズレた・・・)


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mokuji


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